北の総合診療医 - その先の、地域医療へ(足寄1)

足寄町国民健康保険病院

ashoro1_mainimg.png

2020.03.31 記事

プロフィール
北海道札幌市出身
1993年に札幌医科大学を卒業後、第二内科(循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座)に入局。1997年に米国サウスカロライナ医科大学生化学・分子生物学教室に留学。2001年から札幌医科大学第二内科の助手、2003年に道立江差病院循環器科医長、2004年に斗南病院循環器科科長を務めた。2006年から勤務した厚沢部町国民健康保険病院の院長を経て、2009年4月に足寄町国民健康保険病院の院長に就任。
資格
日本内科学会(総合内科専門医)、日本高血圧学会(専門医、指導医)、日本老年医学会(老年病専門医)、日本プライマリ・ケア連合学会(認定医、指導医)、地域包括医療・ケア認定医、日本医師会認定産業医

“広大なまち”足寄町で医療・介護・保健・福祉が一体化した地域診療

十勝管内の東北部に位置する足寄町。面積は約1408km²と町村では日本一広く、市区町村でも第6位。農業を主体に林業、放牧酪農が盛んな人口6791人(2019年11月30日現在)のまちです。

足寄町国民健康保険病院は1950年に設立。内科、外科、消化器外科、循環器内科、整形外科、精神科、婦人科、肛門外科、眼科を標榜し、365日・24時間体制で救急対応しています。町や介護・福祉施設と密接に連携し、治療を終えて退院後に住み慣れた町で安心して暮らせる医療体制を構築しています。院長に就いてから2020年4月に11年目を迎える村上英之院長に、医療・介護・保健・福祉、町民の生活を支える総合診療についてお話を伺いました。

地域の生活を包括的に支援する総合診療

地域医療の変革へ 循環器科専門医から転身

まちの中心部にある足寄町国保病院。大きな窓から光がさしこむ2階のフリースペースでは、入院患者さんが穏やかな時間を過ごしています。

取材スタッフを迎えてくれたのは村上英之院長。道立江差病院循環器科の医長、厚沢部町国民健康保険病院の院長を経て、2009年4月に足寄町国保病院の院長に就き、延べ15年間にわたり地域医療を担ってきました。

地域医療の道を歩んだきっかけは、「札幌医科大学を卒業後、第二内科(循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座)に入局し、循環器および高血圧などの研究に携わっていたのですが、地方に出張する機会があり、その現状を肌で感じ考えさせられました。」

当時は地域医療の崩壊が叫ばれた時代。様々な地域の実情を目の当たりにし、「地域医療の崩壊は単なる医師不足の問題ではなく、住民とのコミュニケーションやコメディカルとの連携など、地域自体を医師が変えていかなければいけない問題が多いと感じたのです」。

病院の医療だけではなく介護・保健・福祉、町民の生活まで、包括的に支える総合診療が始まりました。

  • ashoro1_img1.jpg

北海道の地域医療を根本的に変える取り組み

足寄町に来た当初の印象について、「『医者の言うことを聞きなさい』という考えを持つ住民が多く、医師任せになっていたように思います」。広大な町では通院困難な地域が多く、古くから住民は自分の体を守る大切さを感じていましたが、「医療や健康についての知識がなく、医師に頼らざるを得なかったのです」。

医師の力には限りがあり、町全体で健康を考える仕組みが必要…。「住民一人ひとりが気付き、考えて行動するよう意識を変えなければならない。そのためには地域に関わる医師が率先し、住民の意識を変えていく環境づくりが大事と考えました」。

村上院長が取り組んだのは、診察の際に生活管理も含めて正しい知識を伝えていくこと。「どんな症状であるのか、疾患に罹ったあとの対策、療養生活で必要なことなど自らで実践できる方法を指導し、帰宅してもらうことを心掛けました」。

地域に出向いて情報発信
積極的な啓発活動を展開

「病院は患者さんを待つのではなく、地域に出向いて情報発信することが必要です」。住民の意識を変える取り組みを、病院から地域へ拡大していきました。町が主催する講演会で、疾患予防や健康などの啓発活動を行うとともに住民とふれ合い、健康セミナーを企画し老人クラブなどで開催しています。「診察室での限られた時間では話せない様々な要望について、生の声を聞ける大切な場です」。

着任当初はいわゆる“コンビニ受診”が多かったそうですが、正しい知識が広まることによって減少しました。

多職種連携を強化しコメディカルが優秀な能力を発揮

「地域には臨床検査技師、理学療法士、保健師、ケアマネージャーなど、とても優秀な人材が多くいます」というものの、着任した当初は多職種連携が浸透しておらず、高い能力が生かしきれていませんでした。

「患者さんが暮らしていくためにはどのような社会的な支援が必要なのか、多職種が連携して考えていくことが重要」。職種を超えた病院内の連携を強化することで、コミュニケーションが活発になり、各自の能力を発揮したチーム医療につながっています。「個々のスタッフが相談しやすく、一緒に話し合いができる環境づくりに日々取り組んでいます」。

多職種連携による生活を見据えた支援

救急医療と回復期病棟を重視した診療体制

広大な町の健康を支える病院の役割として、村上院長は救急医療を重視しています。救急告示病院として365日・24時間体制で、一次救急においては1年間に300〜400台の救急車を受け入れています。

60床を有する病床は、人口減少に伴い入院患者数は減少傾向にある一方で、入院が長期化する高齢患者さんも多く、病気が進行した場合は帯広市の基幹病院に紹介しています。

高齢化による喫緊の課題は認知症で、「生活が困難な認知症患者さんが増加し、家族が疲弊して相談されるケースは特に増えています」。

救急医療とともに病院の重要な役割に挙げたのは、在宅復帰を支援する回復期病棟。「スムーズに在宅生活に戻れない高齢の患者さんも多くいます。リハビリを含めて機能改善を目指す回復期病棟は、地域に密着した役目もあります」。

  • ashoro1_img4.jpg

疾患を治すだけではなく退院後の生活を支える医療

「退院後に住み慣れた家で生活できるよう環境を整えることが地域では大切です」。着任して以降、力を注いできたのは退院後の生活を見据えた支援。疾患だけではなく、生活環境に関わる情報を把握しているか否かで、退院後の生活に大きく影響すると話してくれました。「歩くのが困難であれば、家の段差や手すりの有無によって生活が大きく変わってしまう。トイレの利用や入浴など生活の隅々まで行き届いた支援が欠かせません」。

農業や林業が基幹産業の足寄町では、患者さんの家族が農作業に追われていたり腰の痛みを抱えるなど、介護ができないケースもあります。「患者さんの在宅での生活をイメージし、医療サービスを含めてどこまで家族が介護に関わることができるのか。医師はコーディネーターの役目もありますが、すべてを医師が決めるのではなく、患者や家族にとってベストな方法を、しっかりと多職種で共有し考えています」。

行政との密接な連携 多職種が互いの情報を共有

病院と行政との連携も重視しています。「地域医療で大切なのは、行政との距離が近く一緒に考える関係。町役場のスタッフが気軽に足を運んでもらえるよう、敷居を低くして相談しやすい環境づくりを全職員に指導しています」。週に1回、町役場の福祉課職員が病院に出向いて、病院と行政の情報を共有する会議を開いています。「福祉課のスタッフが担当する住民の情報と、入院患者さんの情報をもとに、「どうすれば地域に戻れるか、病院を来るのが困難な患者さんをどうやって受診につなげるかなどを話し合っています」。

さらに月2回、福祉課の職員に来てもらい、医師、理学療法士、看護師など多職種が参加してリハビリカンファレンスを開き、リハビリの動画などを参照しながら患者さんの状態を把握し共有しています。「退院後の生活でどのようなサービスが必要かということも、行政を含めた多職種で決めています」。

  • ashoro1_img2.jpg

人口減少と高齢化の加速で薄れていく地域コミュニティーが課題

若い世代の流出により人口が減少している足寄町。高齢化率は40%に迫り、一人暮らしの高齢者も多くいます。「隣の家まで遠く離れている状況で互いに支え合う力が弱く、地域のコミュニティーの脆さは少しあると感じています」。

訪問診療は国保病院と在宅療養支援診療所の「ホームケアクリニックあづま」が担っていますが、在宅医療の受け入れに関してはマンパワーの問題などがあり、浸透していないことが課題です。「クリニックと協力して訪問診療の普及に努め、地域全体が一つの病院のような形で関わる仕組みを作っていきたい」。

介護・福祉施設も限られており、「自立生活が困難な高齢者が過ごせるコミュニティー的な施設が不足しています」。村上院長は、着任してから精力的に取り組んできた、“住民一人ひとりが気付き、考えて行動する意識”のさらなる拡充を目指しています。「地域のコミュニティーを強化し、元気な高齢者が高齢の患者さんを見守る体制など、住民の力を結集したまちづくりが大事なのです」。

総合診療医を目指す医師へのメッセージ

「地域の日常を見学し実習に取り組む中で、地域の取り組みを実感してもらいたいです。専門医を目指す地域枠専攻医も実習に来ています。専門以外の多様な疾患を診療し、患者さんや家族とのコミュニケーションの中で、自分と異なる思いにぶつかることもあるようですがそれも勉強です。地域の特性を理解した上で必要な対応を模索し、話し合って良い方向に導く能力が実践で身に付きます。多様な背景を持つ患者さんに向き合うこと、豊富な症例の経験など都会では学ぶことができない地域ならではの専門性が得られます。医学を幅広く学びたい、より成長したい人にとって貴重な研修の場。一度は足を向けてもらいたいと思っています」。

足寄町国民健康保険病院のほかの
医療スタッフや町長のインタビューもご覧ください

  • etc_ashoro2.png
  • etc_ashoro3.png
link_btn_ashoro.png link_btn2.png

カテゴリー

page top