検討評価調書【概要版】(松倉ダム)

北海道建設部・平成10年10月26日

第1章 松倉ダム事業の概要

1 事業の背景

 松倉川流域においては、今まで数多くの洪水被害を受けてきたことから、松倉 川流域(本川松倉川、支川湯の川、鮫川等)の治水安全度の向上を図るために、 昭和41年度より改修工事を実施している。
 しかし、昭和56年8月の台風により洪水が発生し、大きな被害を受けた。こ れを契機として抜本的に治水対策を検討する必要が生じた。
 その結果、本川及び支川の恒久対な対策としては、沿川が高度に土地利用され ている状況から地域への影響を考えると、大幅な河道改修は困難であると判断し 、ダムを計画することとした。
 また、函館市の水道計画においては、人口の増加、水洗化の普及、工業団地へ の企業誘致などにより、水需要の増加が予測され新たな水源を求める必要があっ た。
 このことから、松倉ダムは、多目的ダムとして平成5年度に実施計画調査に着 手した。
 松倉川水系の治水対策は、河道拡幅・分水路・遊水池・放水路等について検討 を加えた結果、家屋の移転や耕地への影響が少なく、水需給対策にも対応できる 松倉ダム(上流)と分水路によることとした。

2 事業計画の概要

 ダム地点における計画高水流量220立方メートル/sのうち215立方メートル /sの洪水調節を行うとと もにダム下流の流水の正常な機能の維持と増進を図り、あわせて、函館市の水道 用水として、20,000立方メートル /日の取水を可能とする。
 ダムの規模は、堤高72.0m、堤頂長300m、堤体積240,000立方メートルである。

3 再評価を行う必要性
 近年、公共投資のあり方など公共事業を取り巻く社会状況の変化が急速に進み21世紀を間近に控え、過去の枠組みが見直される時代に入ってきている。
 また、地域の自立、自然との共生、価値観の多様化・国際化が進む中、より地域住民の意見を反映した公共事業のあり方が求められるようになった。 
 さらに、河川行政においては、学識経験者や住民意見の反映をうたった河川法改正の動きの中、「住民参加」の取り組みを制度化する動きにあった。
 松倉ダムは、平成5年度から諸調査を実施し、流域の治水対策等の計画概要や 自然環境への影響について、住民へ説明するための準備を進めていたが、この間 、事業を巡りその必要性や自然環境への影響など様々な意見があり、このままでは、事業の円滑な推進に支障を来たし、長期間停滞するおそれがあったことから、一旦立ち止まって住民意向の把握に努め今後の進め方を検討することとした。

第2章 住民等意向の把握

1 住民意向把握の基本姿勢

      ○広く住民の意見を聞く。
      ○住民にわかりやすく伝える。
      ○事業者が持っている情報を公開する。
      ○意見を聞く場においては、公平性・透明性の確保に努める。

2 住民意向把握の経緯

 市民説明会(3回)、函館市内町会長・6町内会・市民団体との意見交換、「松倉川意見交換会」(5回)を開催し、住民意向の把握に努めた。その内容については、市広報・新聞折り込みなどでお知らせするとともに検討資料なども公開 した。

3 住民の意見

 住民意見の主な内容は、次のとおりである。

【治水対策】
「住民不安を取除くため更に治水対策が必要である」、「ダム建設が妥当な手段である」、「ダム建設は自然環境へ影響を与える」などの意見がある。
【利水対策】
「将来に向け余裕を持った水需給対策が必要である」、「必要性について再検討する必要がある」、「人口予測の根拠が不明である」などの意見がある。
【環  境】
「ダムを建設した場合の自然環境への影響が示されていない」、「河口・海域への影響を調査・検討する必要がある」などの意見がある。
【その他】
「事業費の膨らみが懸念される」、「意見交換会は有意義であった」、「会議のあり方を考えるべき」などの意見がある。

4 地元自治体の意見

 松倉川の治水対策については、「流域住民や下流部温泉街に宿泊する観光等の生命と財産の安全確保という点からも、非常に危惧されるところであり、よって100年確率の確保に向けた早期かつ抜本的な治水対策を講ずるよう強く要請す る」、函館市の水需給対策については、「水需要予測の基本的な指標である給水人口の見直しはもとより、安定した水源やゆとりある施設能力の確保、安全で良質な水の供給、さらには広域的な水需給の展望や節水等も含めた効率的な水需給の視点も加味し、早期に見直しをする必要がある」、松倉ダムについては、「市民意見等を踏まえた治水対策・水需要対策を展開するためには、水需要の予測を見直しを行い、治水対策を含めた計画全体の見直しが必要であると考える」との回答があった。

第3章 松倉ダムの再評価

1 利水対策

 函館市の水道は、一人一日平均給水量が上昇しており、今後の水需要の増加 が予想されることや松倉川などからの取水は夏期及び冬期において、流況が悪く不安定な状況にあるなどのことから、水需給対策として地下水・海水の淡水化・ 既存ダムの嵩上げによる水源の確保、雑用水の再利用、節水PRによる水需要の抑制等を検討し、松倉ダムによる新規の水資源開発が必要であるとしていた。
 しかし、その給水量は、最近微減の傾向にあり、現在切迫した水不足を起こ してはいない。
 また、意見交換会等においては、「ゆとりのある水需給対策は必要である」、「節水や水のリサイクルを考えるべき」の他に将来の給水人口の設定について多 くの疑問の意見が出されたことなどもあり、函館市では「函館市の水需給対策は、水需要予測の基本的な指標である給水人口の見直しはもとより、安定した水源やゆとりある施設能力の確保、安全で良質な水の供給、さらには広域的な水需給の展望や節水等も含めた効率的な水需給の視点も加味し、早期に見直しをする」 としている。
 このようなことから、函館市の当面の水需要の増加は見込めなくなったと考え る。

2 治水対策

〔必要性・妥当性〕
 松倉川水系の河川は、近年その流域の市街化が進み、人口や資産が増加してお り、現在進めている河川改修では、治水安全度が十分ではないこと、意見交換会 等では「松倉川流域の土地利用、人口の集中度を考えた場合、市民の貴重な生命 ・財産を守るための治水対策は必要である」や「地域住民が洪水による被害を受けないような治水対策を」等の治水対策を要望する意見が多かったことや函館市からは「松倉川の治水対策は・・(中略)・・・、よって100年確率の確保に向けた早期かつ抜本的な治水対策を講ずるよう強く要請する」との意見があった ことから恒久的な対策を進める必要がある。

〔優先性〕
 松倉川流域においては、中小規模の降雨によっても洪水が発生している状況にあり、近傍河川の整備状況から勘案すると優先的に整備していく必要がある。

〔代替性〕
 ダムを代替する方法として、河道拡幅、遊水地、放水路等の治水対策案を検討している。
 これら代替案は、ダムに比べ事業費が大幅に高くなることが予想され、また、河道拡幅や遊水地案は、一般家屋やホテル・マンションの移転補償等や広範囲にわたる用地の確保、橋梁の改築、道路の付替えなどの課題はあるが、代替性は ある。
 意見交換会等においては、「ダム難民も発生せず農耕地をつぶすこともない松倉川上流へのダム建設が現実的には、有効な手法である」「治水対策イコールダムを造ることとは別問題」「川の管理、排水口、配水管の管理、雨水を土に戻す環境造り、植樹の森造りをして保水力を高める事が大切だ」との意見が出されている。

〔その他〕
 松倉川上流の自然環境については平成5年から、地形・地質・植物・動物等に関する現況調査を実施しており、その内容を意見交換会等において説明すると共に、松倉川意見交換会においては専門家から「森林の保水能力」や「ダムと自然環境」について講演をいただいた。
 意見交換会においては、ダム建設による自然環境及び海域への影響や保全措置に対する検討は今後の作業としていたことから、「ダム建設に伴う環境へのマイ ナス面を説明して欲しい」「ダムを作った場合の海域への影響調査を早急に実施すべき」「ダム建設後の環境への影響について説明がないため、造ったらどうかと聞かれてもわからない」との意見が出されている。

第4章 所管部としての考え方

 松倉ダムは、松倉川沿川流域の水害の防除と函館市への水道用水の供給などを目的とした多目的ダムとして、平成5年度から諸調査を実施してきた。
 この間、環境や公共事業の透明性等に対する国民的関心の高まりのなか、松倉ダムにおいても、建設に伴う周辺の自然環境などについて様々な意見が出されたこと から、事業の円滑な推進に支障をきたすと予想されるため、再評価を行うこととした。
 再評価にあたっては、住民等の意向が重要であることから、情報の公開、説明の責任などを基本姿勢に、市民説明会や町内会との意見交換、「松倉川意見交換会」 等を開催し、その把握に努め、今後の進め方について検討を行った。
 松倉川流域は、近年、市街化による人口や資産が増加し、洪水による大災害のおそれがあることや中小規模の降雨により度々洪水被害が発生していることから、治 水対策の必要性、優先性は高く、住民からもその必要性を認める意見が多い。
 函館市の水道の給水量は、最近、微減の傾向にあり、現在切迫した水不足を起こしてはいない。また、住民からは、水需要予測における給水人口予測などについて の疑問の意見が多く、市はこれらの意見等から水需要予測の基本的な指標である給水人口の見直し等をすることとしている。
 また、松倉ダムについては、住民から、「ダムを建設した場合の自然環境への影響が何も示されていない」「ダムありきではなく、環境にもっと配慮を」「治水対策イコールダムではない」などの意見がある。
 このように、恒久的な治水対策が急がれるものの、当面の水需要の増加が見込まれないことから多目的ダムとしての松倉ダムは、「中止」とすることが適当と考える。

第5章 今後の取り組み

 今後、以下の取り組みとする。
○函館市の水需給対策については、市が独自に取り組むこととし、その検討にあたっては、河川管理者として協力する。
○松倉川水系の総合的な治水対策については、ダム、分水路、遊水地、放水路等の調査検討を更に行い、河川法の改正に基づく「河川整備基本方針」や「河川整備 計画」を学識経験者や住民の参加を得て策定する中で検討し、位置づける。
○現在実施している河川改修(松倉川、鮫川、湯の川)を進める。

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