検討評価調書【概要版】(「医療・産業・研究都市づくり」の推進)

保健福祉部・平成10年11月4日

 

第1 「医療・産業・研究都市づくり」事業の概要

1 事業の背景・契機
 道は、都市開発や高次医療センター、研究所の建設などを内容とするハイメックス構想が、当初想定した第三セクターによる事業化が困難となったことから、ハイメックス協議会からの要望を受け、公的機関による土地開発、道立研究施設の建設などを産学官がそれぞれ役割を担いながら取り組んでいく「医療・産業・研究都市づくり」事業を進めることとし、平成6年9月に基本構想を策定した。

2 事業の内容
 北広島市南の里地区において、「医療・福祉関連等を中心とする研究開発・サービス提供の拠点形成と快適な住環境を備えた街づくり」を行う。

3 「時のアセスメント」の対象決定
 基盤整備などに課題が生じており、今後、本事業が停滞するおそれがあることから、平成9年12月に「時のアセスメント」の対象施策として決定した。

第2 評価に当たっての基本的な考え方

 評価に当たっては、基本構想を策定した平成6年度からだけでなく、「ハイメックス構想」が策定された昭和62年から現在に至るまでの、道内の社会経済情勢の変化や本事業を取り巻く環境の変化などを把握するとともに関係者からの意見聴取を行った。

第3 「医療・産業・研究都市づくり」事業の評価

1 社会経済情勢の変化
・道内の経済環境は厳しさを増している。
・産業クラスターなど産学官が連携した研究開発手法が提起されてきた。
・都市整備の方向性は、既存市街地の再充実に重点を移行する必要があると提起されている。

2 本事業を取り巻く変化

(1)研究開発・サービス提供の拠点形成
・国では保健医療分野における研究開発を推進するための施策を充実させてきた。
・道立の試験研究機関においては、大学や企業との共同研究により、医療・福祉分野でも成果を上げてきている。
・道内の既存財団は、人工皮膚などの共同研究に対して資金支援を行っている。

(2)快適な住環境を備えた街づくり
・道は、平成10年4月に、「北海道福祉のまちづくり」条例を施行し、高齢者・障害者に配慮するなど、多様なニーズに対応したまちづくりを促進することとしている。
・札幌圏の住宅地については、民間事業者を含め供給が需要を上回っている。

3 関係者の意見

(1)ハイメックス建設推進協議会
ア 事業の必要性、妥当性、緊急性等について
・「総合的な都市づくり」という手法については、現時点においては厳しいものと考える。
・高次医療技術の研究開発・サービス提供については、高齢社会を迎え、今後、益々必要となるとともに緊急性の高い重要な課題であると考える。
イ 仮に、事業が休止又は廃止になった場合の影響について
・ハイメックス構想の推進が著しく困難になると予想される。
・事業化方針の変更等を含めた協議会体制の見直しが必要になると予想される。

(2)北海道住宅供給公社
ア 事業の必要性、妥当性、緊急性等について
・平成6年の基本構想段階では、土地区画整理事業が成立すると考えていたが、事業収支の悪化が見込まれることから、公的資金の支援がなければ事業主体となることは困難である。
イ 仮に、事業が休止又は廃止になった場合の影響について
・保有地については、今後の公社事業としての開発が困難となることから、土地利用を北海道においても検討してほしい。

(3)北広島市
ア 事業の必要性、妥当性、緊急性等について
・医療と福祉が機能的に連携したサービス提供体制の整備は、市がめざすまちづくりの姿に合致するものである。
・保健・医療・福祉サービスの充実は、今日の重要な行政課題であり十分妥当性がある。
イ 仮に、事業が休止又は廃止になった場合の影響について
・市のまちづくり計画の推進に支障をきたすことになるので、今後、新たに検討することとなる市の振興発展方策に対して支援してほしい。

(4)民間地権者
ア 「医療・産業・研究都市づくり」事業について
・事業を推進してほしい。

4 所管部としての考え方

(1)項目別評価

ア 研究開発・サービス提供の拠点形成

(ア) 国立代用臓器開発研究センターや企業研究施設等の誘致が見込めない中で、道立の共同利用型研究施設や先端医学研究施設だけでは、拠点機能の発揮が困難と考えられることやインターネットを活用した分散ネットワーク型の研究開発も可能となっていることから、国際的な人材や知識を集積するために、今日の社会経済情勢の中で、あえて一点集中型の大規模な拠点を整備することは難しくなっていると考える。

(イ) 本事業における高度先端医療技術の研究開発については、主なテーマを人工臓器などの代用臓器やメカトロニクス福祉機器等に設定しており、市場性や将来性が大きく長期的には道内における産業の育成にもつながるものと考えられるが、経験や蓄積が少なく、大規模な研究開発に対する新たな投資には大きなリスクも予想されることから、現時点では道内の産業界が緊急に取り組んでいける状況にはないと考える。

(ウ) 研究開発主体となる財団法人については、民間が主体となって設立することとしているが、中心企業であった北海道拓殖銀行の破綻により、道内に母体となる企業が見当たらず、法人を運営する人材の確保や研究資金を調達する面で不安があり、また、道内産業界の厳しい経営状況から見て、構想に見合う規模や内容の財団法人を短期間に設立することは難しいと考える。

(エ) 道立の共同利用型研究施設等については、拠点形成による産業振興手法を採用することが難しくなっていることや高度先端医療の研究開発に対して道内の産業界が緊急に取り組んでいける状況にはないことから見て、現時点で設置を検討できる状況にはないと考える。

イ 快適な住環境を備えた街づくり

(ア) 住宅地については、研究施設等に従事する研究者や従業員などのほか、札幌圏の多様な住宅需要にも対応していくこととしているが、現在、札幌圏で行われている大規模な公的住宅地開発は、景気低迷などから販売が計画どおり進んでおらず、民間事業者を含めた供給も需要を上回っていることから、道が関与して大規模な住宅地を整備しなければならない必要性、緊急性は薄れていると考える。

(イ) 高齢者や障害者に配慮した街づくりについては、「北海道福祉のまちづくり条例」等の施行により、全道的に取り組まれてきており、道がモデル的なニュータウンをつくる必要性は薄れていると考える。

ウ 総合的な都市づくり

 サイエンスパークのような、職・住近接した都市づくりについては、全国各地に多くの事例が見られることから必要性や効果などについてあえて言及しないが、本事業でめざそうとしている総合的な都市づくりの手法については、南の里地区における基盤整備が困難なことや、前2項の評価から見て妥当性はないと考える。

(2)総合評価

 社会経済情勢の変化から、高度先端医療技術の研究開発を中心とした一点集中型の拠点整備が難しくなっており、また、道が関与して大規模なニュータウンをつくる必要性、緊急性は薄れていると考える。
 こうしたことから、「医療・産業・研究都市づくり」事業については、廃止すべきと考える。
 なお、この事業でめざしていた人工臓器などの高度先端医療技術、在宅・在職医療支援技術や福祉機器等の生活支援技術に関する研究開発や関連する産業振興については、ハイメックス協議会の活動の中から提起されてきた「高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に配慮した生活環境の整備」といった概念の実現と合わせて、高齢社会を迎える道民ニーズにも合致するものと考えられるので、道として、今後、関連施策との連携を図りながら、推進方策について検討していかなければならないものと考える。

第4 事業が廃止になった場合の影響と対処方法

1 ハイメックス建設推進協議会

(1) 影響
 道の「医療・産業・研究都市づくり」事業が、現時点ではハイメックス構想を実現する唯一の手段となっていることから、本事業の廃止により、ハイメックス構想を推進することが著しく困難になることが見込まれる。

(2)対処方法
 道の方針が決定後、協議会において「ハイメックス基本構想ならびに事業化方針」を検討することになるが、道として、本事業がめざした「医療・福祉関連等を中心とする研究開発・サービス提供の拠点形成や快適な住環境を備えた街づくり」について、その必要性や緊急性は薄れていると判断していることから、会員の意向を十分に配慮しながら道の意思を明確にして、責任ある現実的な対応をする必要があると考える。

2 北海道住宅供給公社

(1)影響

ア 南の里の公社保有地は、平成2年にハイメックス構想の適地として選定され、平成6年度からは、「医療・産業・研究都市づくり」事業の対象地区として位置づけられてきたが、貴重な動植物の存在が確認されたことから土地利用方法が大きく制限されることが明らかとなっており、今後、住宅団地を目的として公社が事業を実施することは困難となることが見込まれる。

イ また、本事業を円滑に推進するために、平成7年度から実施している無利子貸付けの必要性はなくなるが、新たな土地活用方法が見出だせない状況では、土地の長期保有につながり、新たな金利負担が発生することが見込まれる。

ウ 公社はこれまで、基盤整備の事業主体として相当額の事務管理経費を支出しており、その経費は公社の損失となることが見込まれる。

(2)対処方法

ア 南の里の公社保有地は、今日では、都市近郊に残された数少ない貴重な自然環境を有する土地であり、こうした特性に応じた土地活用方策の検討が必要であると考える。

イ この公社保有地は、道がハイメックス構想や「医療・産業・研究都市づくり」事業を政策的に位置づけたという経緯があることから、新たな土地活用方策が決定するまでの間、公社が大きな負担を生じないような対策を検討する必要があると考える。

ウ 公社が要した経費の扱いについては、事業主体としての公社の役割もあると考えることから、協議していく必要があると考える。

3 北広島市

(1)影響
 市は、南の里地区が協議会において事業対象適地として選定されたことから、平成2年に策定した第3次総合計画(2000年基本構想)の中で、ハイメックス構想をまちづくりの主要なプロジェクトとして位置づけ、平成6年には、道、公社、協議会とともに、北海道の「医療・産業・研究都市づくり」基本構想の策定に参加し、その後、四者の役割分担に基づき事業の推進に努めてきている。
 本事業が廃止となった場合、まちづくりの主要なプロジェクトが失われるばかりでなく、これまでに構想を実現するために進めてきた、市の人口計画や給水計画、事業対象地区周辺の土地利用、道路網のあり方等に大きな影響が生じることが見込まれる。

(2)対処方法
 市は、平成13年度からの総合計画を策定するために、今後、新たなまちづくりを検討していくこととなるので、道としても協力をしていく必要があると考える。

4 民間地権者

(1)影響
 道は北広島市、公社とともに、地権者に対し、平成6年12月以降、用地の先行取得などに対する協力を依頼してきた経緯がある。
 その後、作業の遅延状況や時のアセスメントへの追加選定などを説明しているが、なおも本事業の推進を求める意見がある。

(2)対処方法
 今後、道の方針を決定するに至った考え方について理解を求めるために、誠意をもって対応していく必要があると考える。 

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