鈴木知事の北海道電力(株)泊発電所視察(令和7年12月4日)
令和7(2025)年12月4日、鈴木知事は、北海道電力(株)泊発電所3号機における安全対策の状況を現地で確認しました。
視察の状況
1-1 防潮堤(掘削工事部)
【北電 小山田泊発電所次長】
○ 防潮堤は、全長1.2㎞ありますが、重要施設の津波による浸水を防止するために設置し、周辺地盤
の液状化を考慮しても耐震性を確保できる基礎岩盤に直接支持させます。
○ 防潮堤の幅は、岩盤の深さに応じて17m~30mです。高さもそれに応じて20m~40mです。
○ 防潮堤の天端高さは海抜19.0mであり、海抜10.0mの地表面からは9mの高さです。
○ 岩盤まで掘削するため、周囲の土砂を崩さないために、鋼管杭・鋼矢板による土留工を施工しま
す。
○ 土留工施工の後、バックホウにより地盤を掘削し、テレスコクラムにより掘削土砂を地表まで揚
げ、ダンプトラックにより搬出します。
○ 基礎岩盤まで掘削後、岩盤の不陸や高さ調整のため、下部コンクリートを打設します。
○ その後、所定の厚さでセメント改良土を打設し、防潮堤躯体を構築します。
【鈴木知事】
○ 防潮堤については、説明会でも関心が高い事項でした。
防潮堤工事の全体の進捗としては、順調に進んでいますか。
【北電 小山田泊発電所次長】
○ 進捗は順調に進んでおります。現在、掘削を進めており、11/30時点で、94%の進捗で、全体で
は約50%の進捗となっております。
○ 説明会では「泊発電所敷地内の一部は埋立地となっているが、大きな地震が発生した時に各種設備
は耐えられるのか」との質問がありました。
○ 泊発電所敷地内の一部は埋立地となっていますが、原子炉建屋などの安全上重要な機器が設置され
ている施設は、岩盤に直接構築しています。
○ 防潮堤についても同様に、岩盤に直接構築しています。
また、これら施設や施設内機器などは、設計段階において計算条件や評価基準を安全側に設定する
など、耐震性に十分な余裕を確保しています。
【鈴木知事】
○ 全ての道民の皆様に、こういった進捗や環境を直接見ていただく機会が中々ないので、そういう説
明をこれからもしっかりしていくことが重要だと思いますのでよろしくお願いします。
1-2 防潮堤(端部)
【北電 小山田泊発電所次長】
○ 泊発電所では、過去の津波記録だけでなく、「地震に伴う津波」と「地震以外の要因に伴う津波」
を組み合わせるなど、さまざまな津波発生シナリオを検討しています。
○ その中で、最も厳しい津波を「基準津波」として定めました。
○ 基準津波の設定にあたり、津波が発生し得るあらゆるケースを想定したシミュレーション解析を
実施し、防潮堤前面位置における津波の高さ(水位変動量)を「15.68m」とし、審査会合において
認められました。
○ これに加え、地震による地形の変化や潮位のばらつき等を考慮し、更に安全裕度を考慮し、防潮
堤高さを「19.0m」としています。
○ 説明会では、北海道が公表した、泊村での最大津波高さ19.3mと泊発電所の防潮堤の高さ(海抜
19m)について、質問がありました。
○ 評価位置によって想定される津波高さが異なっており、泊発電所位置の津波高さは8.0m程度と
なっていること、また、泊発電所の基準津波(水位変動量15.68m)の策定過程において、道が公
表した津波高さよりも当社評価の方が高いことを原子力規制委員会にも確認いただいていること
を説明しています。
【鈴木知事】
○ 仮に、19mを超える津波が来た場合には、どのような対応を取るのでしょうか。
【北電 牧野常務(泊原子力事務所長)】
○ 基準津波の高さ15.68mに対し、防潮堤の高さが海抜19.0mであり十分な余裕があると考えていま
すが、それでも万一、津波が防潮堤を超えて敷地に多少侵水したとしても建屋外壁や水密扉により
重要な機器が設置されているエリアへの浸水は防止されます。
○ なお、敷地が浸水した場合には、防潮堤下部に設置された排水路を介して海へ排水することにな
ります。
2 アクセスルートトンネル
【北電 小山田泊発電所次長】
<アクセスルートトンネルの位置付け・耐震性>
○ 地震や津波等による重大事故発生時に、事故対応する車両等が、保管場所から原子炉建屋等まで通
行可能なルート(アクセスルート)を確保する必要があります。
○ アクセスルートトンネルは、津波の影響を受けず、かつ防潮堤内へ通行できるルートを確保するた
め、施工したものです。
○ 本トンネルのコンクリート壁には、約2~3㎝の鉄筋を密に配置し、基準地震動に対しても、十分
な耐震性を有した構造となっています。
【北電 牧野常務(泊原子力事務所長)】
<基準地震動の評価>
○ 地震によって炉心(燃料)損傷などの重大事故を起こさないよう、原子力発電所の耐震設計上、想
定される地震による揺れの大きさを適切に評価する必要があります。
○ この地震の揺れの大きさを「基準地震動」といいます。
○ 「基準地震動」の評価にあたっては、敷地に大きな影響を与える様々な地震を抽出し、地震の規模
等に関し、より安全側の評価となるような条件を考慮しました。
○ その結果、揺れの強さを示す加速度は、最も大きいケースで693ガル(再評価前550ガル)となり
ました。
<可搬型設備の配置状況>
○ 重大事故時等に事故収束のため使用する車両である可搬型設備(送水ポンプ車、ホイールローダー
等)は、津波の影響を受けないよう海抜31m以上の高台(31m盤、51m車庫)に通常時は分散配置
しています。
○ これら可搬型設備は、重大事故時等に使用する場合、シビアアクシデント時の専門的な対応チーム
として配置しているシビアアクシデント対応チーム(通称SAT)等が高台から発電所敷地高さ
(10m盤)で活動をするために移動することになりますが、それらを円滑にできるようにアクセス
ルートトンネルを設置しています。
○ 説明会では「地震による道路被害や火山灰の降灰があった場合、送水ポンプ車などの可搬型設備は
使用できるのか」と質問がありました。
○ 可搬型設備は、頑健な岩盤上に配備するとともに、通行するルートの液状化評価や地盤や周辺斜面
の安定性評価を実施し、その結果、通行に支障があると想定される箇所について、あらかじめ地盤を
コンクリートによる人工岩盤に置換するなど確実に使用できるよう対策を講じています。
○ そのため、例えば、こちらの可搬型送水ポンプ車の場合は、高台の配置場所から、取水箇所まで確
実に移動できるようアクセスルートトンネルをはじめとしたアクセスルートを整備しています。
また、水源についても、淡水・海水が使えるように多重化・多様化を図っております。
○ 火山灰などの降下火砕物については、40㎝の降灰を想定し、建物や設備への降下火砕物による荷
重、閉鎖などの影響に対する評価を行い、安全性を損なわないことを確認しています。また、降灰
時でも車両や可搬型設備が移動できるよう発電所構内各所に配備している重機を用いて除灰を行い、
対応していくこととしています。
【鈴木知事】
○ 事故が発生した場合の、災害対策要員の方々の参集は、どのように行われるのでしょうか。
【北電 牧野常務(泊原子力事務所長)】
○ 再稼働時には、発電所内に44名の対応要員が24時間待機しますが、重大事故等が発生しその交替
要員の参集が必要な場合については、今日入構する際に使用した茶津守衛所を経由するルートと、
津波の来襲により茶津守衛所が使用できない場合は、発電所山側の津波の影響を受けない参集ルー
トも確保しており、その2ルートを使用して発電所に参集することにしています。
○ また、山側の参集ルートは、厳冬期に参集訓練を実施し、確実に参集できるようにしています。
3 運転シミュレータ訓練
【北電 古谷発電室課長】
○ こちらのシミュレータ設備は、大型表示盤とタッチパネル式の操作盤で構成されていて、どちら
も実際の中央制御室のものと同じサイズとなっております。
○ 泊3号機の運転員は、24時間3交替の当直勤務体制を組んでおります。
○ A班からE班の5つの班が3交替勤務で発電所に常駐しておりまして、中央制御室でのプラントの
監視、現場での巡視点検等のプラント運転業務を行いながら、事故発生時に備えています。
○ 1つの班には、チームを統括します発電課長、運転員へ操作指示をします副長、操作を行う運転
員4名の計6名体制としています。
○ 説明会では「運転未経験の発電所員が多い中で、所員の技量向上、技術継承はどのように行って
いるのか」と質問がありました。
○ 現在、運転員の中には、約4割の運転未経験者がおりますが、発電課長と副長はプラント運転経験
者であり、また先行他社の稼働中の原子力発電所へ派遣し、プラントの運転を経験してきた運転員
も、運転員Ⅰとして当直勤務するチームに配属しております。
○ 運転未経験者には、ベテラン運転員と稼働中プラント経験者から技術伝承する等、技術力強化に
取り組んでいます。
○ また、再稼働に向けては、事故対応訓練の他にも、シミュレータを用いたプラント起動操作訓練
や、あらかじめ異常を模擬した訓練設備を巡視させ異常を速やかに発見させる訓練等を取り入れ、
技量向上に努めています。
【鈴木知事】
○ 若手職員の育成で心がけていることはありますか。運転員としての心構えとはどのようなものです
か。
【北電 土門発電室長】
≪若手職員の育成で心掛けていること≫
○ 育成にあたっては、教育担当者にだけ任せるのではなく、若手職員がどの様な育成段階にあるか
を把握することが重要です。そのため上長が率先して、若手職員とのコミュニケーションをとり、
育成状況の確認を行うよう私自身も含め、各上長にお願いしています。その中で若手の考えを理解
し、時代に即した育成方法を常に心掛けています。
≪運転員としての心構え≫
○ 原子力発電所の運転を行ううえで、安全最優先の姿勢で臨むことが重要であり、発電量や効率より
も、設備・人員・環境と言った部分での安全を第一に考えること、また、規則や手順の順守も必要で
あり、慣れや思いこみによるミスの防止についても常に意識し行動すること、トラブル時において
は、常に冷静な判断と迅速な対応を心掛け、継続的な学習と訓練を行い、対応能力の向上に努めるよ
う、運転業務を遂行することを心掛けています。
4-1 3号機原子炉格納容器内(耐震補強工事)
【北電 牧野常務(泊原子力事務所長)】
○ アクセスルートトンネルでもご説明しましたが、新たに策定した基準地震動に基づく耐震性評価
の結果に基づき、補強等が必要な設備については、耐震補強工事を実施し、基準地震動による揺れ
に耐えられるようにしています。
○ こちら上部にあるのは蒸気発生器で発生した蒸気をタービンへ導くための主蒸気管ですが、もと
もとはこの部分にはサポートは設置しておりませんでしたが、耐震性の評価の結果に基づき、サポ
ートを新規に追加設置した箇所でございます。
4-2 3号機原子炉格納容器内(水素処理設備)
【北電 牧野常務(泊原子力事務所長)】
[PAR]
○ 「水素爆発対策」について、ご説明します。
○ 福島第一原子力発電所では、炉心(燃料)損傷により発生した水素が原子炉建屋内に漏れ出し爆発
しました。
○ そのため、炉心(燃料)損傷時に生じる原子炉格納容器内の水素濃度を低減させるため、水素低減
効果を考慮した処理方法の異なる水素爆発を防ぐための設備を、原子炉格納容器内に設置しており
ます。
○ こちらの装置が、静的触媒式水素再結合装置(PAR)です。
○ 具体的には、動力源を使用せず水素を空気中の酸素と結合させて水素を取り除く装置で、装置下部
から水素を含んだ空気が流れ、装置内に設置している触媒を通過することにより、水素が除去された
空気と水蒸気が排気され、水素濃度を低減させます。3号機に5台設置しています。
[イグナイタ]
○ こちらの装置が、電気式水素燃焼装置(格納容器水素イグナイタ)です。
○ 装置の原理は、水素をヒータで加熱し、燃焼させる装置で、水素が発生しやすい場所の近傍に
設置しており、静的触媒式水素再結合装置よりも設置数が多く、3号機に13台設置しています。
○ この装置は、中央制御室から手動で起動(炉心出口温度350度等)し、原子炉格納容器内に水素が
発生した場合においても、本設備により逐次水素が燃焼することになり、水素濃度を低減すること
ができます。
○ 説明会では「水素爆発を防ぐための2種類の装置について、種類毎で台数が異なるのは何故か」と
質問がありました。
○ 「静的触媒式水素再結合装置」は、原子炉格納容器内を漂う水素の濃度や、装置1台あたりの水素
低減効果などを考慮し、必要な設置台数を決めています。一方、「イグナイタ」は、水素が発生し
やすい場所の近傍に細かく設置しているため、イグナイタの台数の方が多くなっています。
5 放水砲
【北電 牧野常務(泊原子力事務所長)】
○ 炉心(燃料)損傷などの重大事故が発生・進展し、原子炉格納容器が破損した場合に備えた、「放
射性物質の拡散抑制対策」についてご説明します。
○ 具体的には、原子炉格納容器が破損した場合に、格納容器の頂部等の破損部に大量の水を直接噴射
し、放射性物質の大気中への拡散を抑制するための「放水砲」を1~3号機の共用で2台、予備1台を
配備しています。
○ また、放水砲で使用する水は海水としており、取水するための「可搬型大容量海水送水ポンプ車」
を3台配備(1~3号機の共用で2台、予備1台)しています。
○ 放水砲を使用し落下させた放射性物質を含んだ水が、前面海域へ拡散するのを抑制するため、放射
性物質を除去する吸着剤(プルシアンブルー)およびシルトフェンスを設置します。
○ 原子炉格納容器破損のおそれがあると判断したタイミングで放水することとしており、放射性物質
の拡散前に活動を開始します。また、作業員の被ばく低減の観点から、放水後は一時退避や要員を交
代しながら継続的に放水します。
【鈴木知事】
○ 強風や厳寒期など自然条件が厳しいときでも、格納容器の頂上まで水を放水することはできるので
しょうか。
【北電 牧野常務(泊原子力事務所長)】
○ 放水砲は可搬型設備のため、複数の箇所に設置場所を設定することが可能で、風向き等の天候状況
に応じて、最も効果的な方向から放射性物質の放出箇所等に向けて放水します。また。使用する車
両、資機材は厳寒期に耐える設計としており、操作する要員については必要な訓練を行っておりま
す。
その他
視察終了時に、鈴木知事から、次の事項を北海道電力(株)齋藤社長に申し入れました。
○ 防潮堤の工事状況を拝見したが、作業員の方々の安全と品質の確保、どちらも妥協せずに確実に工
事を進めていただきたい。
○ アクセルルートトンネルにおいて、可搬型設備のお話しを伺ったが、多重・多様な安全対策の確保
は極めて重要であり、可搬型設備等が確実に使用できる環境整備に努めていただきたい。
○ 北海道電力(株)においては、常に規制以上の安全レベルの達成に向け、施設設備などのハード面
と、運営体制等のソフト面の両面における安全対策の推進を、改めてお願いしたい。
○ 訓練などを通じて発見された課題への改善策を適切に反映させて、対応力の一層の向上に努めてい
ただきたい。
知事からの申し入れ後、齋藤社長から、次のとおり返答がありました。
○ 知事からいただいたお話については、しっかりと対応してまいります。
○ 泊発電所の安全性向上の追及に終わりはないことから、引き続き、不断の努力を重ねることに
より、世界最高水準の安全性を目指してまいります。
