Ⅷ. 「『牛』も『人』も幸せであるような牧場にしたい」

人生のあゆみ            

ここまできたのは牛のおかげ     

菊地亮太さんは、もともとは動物好きで、将来は牧場を持ちたいという夢を持ち、帯広の大学に進学。最初は競走馬の生産牧場を目指していたが、大学で酪農や牛の魅力を感じつつ、研修で行った牧場が輸入穀物をほとんど与えずに放牧をしており、酪農にはいろいろなやり方があると衝撃を受け、酪農で就農する決意をした。

また、大学時代に出会った亜希さんは、亮太さんの牧場をやりたいという夢に、牧場で搾った生乳を加工するという形だったら、自分も一緒に就農を目指すことができると思い、同じ道を歩むことにした。

就農に向けた研修の中で、「自分は牛をこう飼いたい」という理想がずっとあり、だからこそ自分でやってみたいという意識が強くなった。

ただ、いざ就農してみると思い通りにならないことが沢山あり、あらためて自分の未熟さを思い知らされた。様々な経験をしながら少しずつでも酪農家として成長できていると思っていたが、就農10年目を迎えた年に多くの牛が乳房炎を患い、結果として頭数を減らしてしまうという出来事があり、まだまだ日々勉強だなと痛感させられた。

酪農家として就農する際に、自分自身の評価は100点満点中80点、90点くらい取れているだろうと思っていたが、今振り返ると20点ぐらいしかなかったと思う。それぐらい未熟だった。理想はあったけど、それを実現するだけの知識もスキルもないということが、身にしみた。だから牛をしっかりと見て、牛に教えてもらいながら、ここまできた。

 今後に向けては、牛を動物として愛情をもって飼うことと、経営をしていくことのバランスを経営者としてどう判断するかについて、整理していきたいと考えている。

 

牧場に来てもらうきっかけの1つ   

菊地ファームでは、「牛乳=牛というのは誰でも分かることだが、じゃあ、牛はいつから牛乳を出すのかを知っている人は少ない」。それを知っていることが当たり前にしたいという思いから、地元小学生の酪農体験、都市部の修学旅行生の農村民泊の受け入れを行っている。

 また、2018年には就農前から思い描いていた乳製品加工施設・カフェを牧場内に建て、カフェ内では自家製乳製品や搾乳の役割を終えた牛の肉料理を提供している。カフェというスペースを設けた理由は、一般の方に食べるところまで一貫して提供することで、牧場や牛のこと、食のことについて、もっと伝えられることがあると思ったから。牧場は一般の人が、なかなか入れるようなところではないけれど、カフェみたいなスペースが牧場にあれば、来やすくなるのかな。牛を見て素直に感じること、その牛を見ながら、牛肉を食べるという経験ってそんなにないと思うが、うちでは、料理に使っているお肉の牛の名前もお伝えすることで、「命の大切さや食を考えてもらうきっかけになれば」と思っている。

 

知らないのは消費者のせいではない  

広尾町は、酪農も漁業も林業もあり、十勝管内の中でも、一次産業のバリエーションが多い町。その魅力を伝えるために、自分は酪農をテーマに体験できる場を用意し、酪農家の思いを伝えることができれば、来てくれた方に何か得るものがあるのではないか。そういう機会を増やしていきたいと思っていたと亮太さん。

 そして亜希さんも、就農5年目に、自分ができることで、広尾町に恩返ししたいと考え始めた時に、洞爺湖町でやっているフェスを知り、こういうことをやれば、人に来てもらえるんだと感じていた。ちょうど同じタイミングで、広尾町内の同世代の異業種20人くらいとつながる機会があり、それをきっかけに何か一緒にできないかと立ち上げたのが「ピロロフェス」。

ピロロフェスは、一次産業、食、音楽、雑貨販売を融合させた体験型イベント。始めて良かったことは、一緒にやろうと言ってくれた人たちとの絆が強くなったこと。広尾町を思う気持ちが、以前より強くなった気がしている。今後については構想段階だが、毎年会場を変えるのではなくて、会場はメイン1カ所に決めて、1日の中で酪農体験する人たちはこっち、林業体験する人たちはこっちに行こうかみたいな体験できる場所がそれぞれ周りにあり、町全体でイベントができればいいなと思っている。

 また、菊地ファームでは、2021年10月に初めて、地元の学校給食に牛乳を提供。農協から「菊地さんのところの牛乳を出したらどう」と話を持ちかけられたのがきっかけで、なかなかできないことの機会をくれた農協には感謝している。子供たちもすごくおいしかった、毎日これを飲みたいと言ってくれているみたいで給食センターの方からも今後も続けたいとのうれしいお声を頂いたので、3ヵ月に1回のペースで提供していく予定でいる。

 

いろいろなやり方があっていい    

【亮太さん】

酪農にはいろいろな牧場があって、いろいろなやり方があるけど、どれも正解。多様性が酪農の良いところだと思っている。ぜひ、自分の目指す酪農とか、理想とかを見つけてもらって、それを実現して欲しい。 

答えが1つではないというところが良いところだと思うので、誰かに言われたからではなく自分の色を出す、自分がやりたいと思う牧場を作って欲しい。

新規就農を希望している人は厚かましいぐらいでちょうど良いと思う。うちに来る就農希望者の方にも、その方が「先にチャンスがくるよ」と話をしている。だから、実習中に取り組んでみたいことがあれば、やりたいことを声に出した方が良い。もしそれに対して、厚かましいと思う人がいるかも知れないけど、絶対そっちの方が早くチャンスが来る。就農は、タイミングと出会いなので、それをいかにつかめるかが大事。

【亜希さん】

 自分が何をしたいのかを十分に考えてほしい。就農することはゴールではないので、就農して自分が何をしていきたいのか、どういう生活をしていきたいのかを具体的にイメージしながら、いろいろなことにチャレンジしている先輩たちの話を聞いて、最終的に自分の目指すところに進んでもらえたらいいな!と思います。

 

 

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