Ⅵ. 「人と人とのつながりが大切」

人生のあゆみ          

この地域の農業を将来に     

栗山町日出地区にある(株)グラフィックファームには代表が二人いる。須郷さんと、谷内さんだ。

【須郷さん】

札幌市で営業マンをしていたが、外回りが多く、外回り先の農家を見て、漠然と「農業っておもしろそうだな」と思い、その頃は酪農をイメージしてい、広い牧草地をバギーで走りたいと想像を膨らませていた。その後、市民農園で野菜の栽培に取り組んだり、豊富町で2泊3日の農業体験に参加したりと、実際に触れることで農業をやりたいという気持ちがだんだんと強くなり、就農を決意。北海道農業公社に相談をしたところ受入れのタイミングが合った栗山町日出地区で農業研修をスタートすることになった。全く農業をやったことがなかった須郷さんは、先が見えない不安を抱えながらも、「家族のために後戻りはできない」と、強い覚悟を持ちながら2年間研修を行い、地域の方々から様々な技術を教えてもらったことで、ハウス栽培のミニトマトを主力にした経営を開始した。

【谷内さん】

 もう一人の代表である谷内さんは、日出地区の農家に生まれ、子供の頃から両親の農作業を手伝っていた。農業が当たり前の環境で育ったため、親から継いで農業をやるんだろうと考えていた。高校卒業後、アメリカでの1年半の研修では、広大な大地を手作業で行う露地野菜と酪農を経験し、精神力が鍛えられたという。帰国後、親元就農し、その8年後に親から経営を引き継いだ。

【(株)グラフィックファームの設立】

新規参入者の須郷さんと、農家出身の谷内さん。異なった人生を歩んできた二人が代表となり設立された(株)グラフィックファームであるが、その設立に至った背景には、日出地区の後継者不足が関係していた。中山間地域にある日出地区では、13戸の農家が約100haの農地で営農しており、新規参入で若返りが進んでいるものの、後継者がいない高齢農家もいる。須郷さんは、研修の時からそのような状況を目の当たりにし、自分の経営が安定してきたら「この地域の農業を受け継ぐ、受け皿法人を作りたい」と考えるようになっていた。そのことを、当時一番歳が近く、普段から付き合いのあった谷内さんに相談。谷内さんもその思いは同じだったこともあって、施設園芸と水稲・畑作と、経営形態も規模も違う経営を一つに統合し2020年4月に(株)グラフィックファーム誕生した。

須郷さんは経営管理などの会社の運営全般と施設園芸、谷内さんは農場長という立場で水稲・畑作部門の経営を分担し、それぞれの責任の下進めているという。この考え方は、「元々の経営スタイルが違っていたこともあり、組織内で分担しながら進めよう」と、サラリーマンだった須郷さんが提案したものだった。

 「地区の平均年齢は60代後半。体が動く限り続けたいと言う人もいるが、近年は気候変動も厳しく、規模を縮小したいという人もいる。後継者がいないために農業をやめる人もいる。そのような時は、私たちに声をかけてもらえれば、法人が農地を引き受けて地域の農業を維持していきたい」とお二人は意欲を見せる。

 

土台のない経営はダメ      

法人設立後の経営面積は約40ha。主な作物として、業務用トマト、アスパラ、水稲、小麦、スイートコーンを栽培している。これから周りの農地を引き受けるとなった場合、20~30a程度の小さい農地や水はけが悪い農地が含まれると予想される中で、アライグマ対策や機械の導入費などを考えると、多品目よりも、作物を集約したシンプルな営農を目指していきたいと考える。

出荷先のメインを農協に据えながら、提携先の飲食店やネットショップでの販売にも取り組んでおり、ネットショップでの取扱は年々増えている。主力の一つである業務用トマトは、全量を農協に出荷。スライストマトに加工され、コンビニなどのサンドイッチに使われたり、レストランでも使用されている。

 「収入の土台となる部分は安定させて、経営の基盤を作ることが大事。そこから自分で販売したりなどプラスαの部分をやっていけばいい。それは新規就農した頃から大事だと思っている」と、須郷さんは語る。

 

人と人とのつながりを大切に   

お二人それぞれから、若い農業者やこれから就農を目指す方に向けてメッセージをいただいた。

【須郷さん】

 農村は基本アポなし(笑)。こちらの仕事の都合も関係なくふらっと立ち寄ったりして、付き合いが始まる。直接顔を見て話すみたいなところが農村の文化なんだろうな。だから、人と人とのつながりが大切だと思う。栽培だけを覚えればいいということではない。自分には親方と呼べる人がいなく、つながりができた多くの人に教えてもらって、形になっていった。一方で、農業をする上では、利益率の確保や年間を通した働き方の改善など、会社としての責任も考える必要がある。

農業はシンプル。消費者の皆さんに作ったものを買って、食べてもらって、喜んでもらうことが何より楽しい。サラリーマンの時では得られなかったものが農業にはある。食べ物は生きてく上で大事なもの。だから農業は、非常に大切な産業であり、守っていくために少しでも力になれたらと思っている。

【谷内さん】 

自分みたいな後継者は小さい頃から親の営農を見てきた。夏は畑に行ったままずっと帰ってこない親、農業以外の人から見ると普通ではないことが当たり前だった。逆の立場で考えると、戸惑うことも多くあるのではないかと思うが、生活の糧をここで稼ぐとか家族を養おうと思ったらサラリーマンでも農家でも同じじゃないかな。農村は、仕事と生活両方で関わる場だから、人付き合いは四六時中あると思って大切に考えなければならないところ。

 職業として農業を選んでも、イヤイヤやっていては続かない。農業を好きになれば長くやっていけると思う。

 

 

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