Ⅱ. 「子育て中の女性が働きやすい職場に」

人生のあゆみ                 

農業を通じて地域とつながる          

東海林(とうかいりん)さんの実家は道東で酪農を営んでおり、小さい頃から農業が身近にあった。当時は祖父母が開拓し、両親が規模拡大に取り組んでいた「大変な仕事」という印象が強く、将来農業に関わろうとは思っていなかった。転機は高校時代。農業科目やプロジェクト学習を通して農業と食品の密接な関わりや環境保全など農業の多面的な機能を学べたことがきっかけで、農業に携わる道を考えるようになった。その後、農業教員を目指し大学へ進学したが、農家実習の経験を経て、自分が何も知らないことに気づかされた。卒業後は大学の先生のNPO法人で、農業指導補助をすることに。その時に今一緒に農業をしているメンバー2人と知り合い、2011年に会社〔(株)ふるさとファーム〕を立ち上げて就農した。設立当初は農場長の立場だったが、2015年に代表となった。

就農当時は、ミニトマトを中心に、露地ではスイートコーンや葉物野菜などを栽培したものの、ことごとくエゾシカの食害にあったため、食害の少ないズッキーニの栽培に取り組んだ。収入面で期待していたスイートコーンをやめたのは痛かったが、冬場の収入確保や地元野菜の通年供給を目的に、寒締めほうれん草の栽培にも取り組んでいる。

また、2018年からは露地栽培を拡張し(2ha)、エゾシカがあまり好まない長ネギの栽培に力を入れている。しかし、長年使われていなかった農地は、木々が生えており、その再生には大変な労力を費やしたが、よみがえっていく畑の姿を見た町内の方々からは、喜びの声や、励ましの言葉を頂いたという。「農場に訪れたみんなのふるさとになるように」という思いから会社名を決めた東海林さんたちにとって嬉しい瞬間だった。

 

子供たちに農業を伝えるのは農業者の仕事    

東海林さんは、「就農してからは、子供たちに農業を知ってもらうことは農業者自らが取り組まなくてはいけない大切なことだと思うようになった」と話す。

小さい頃から祖父母や両親の働く姿を見て、農業は自分たちの食生活に直結する「大変だけど大切なもの」だと感じていたそうだが、大変さの前に「楽しい」をプラスしながら、農業が身近ではない子供たちにも伝えていく方法を考えている。

就農の翌年からは、日々の作業に追われながらも農場の一角にある小さな田んぼや畑を活用し、子供たちがお米やじゃがいも、にんじんを栽培し、その収穫物を使ったカレーライスを食べるまでを体験する食育プログラム「カレーライス畑」を実践。生産していく中でどうしても発生する規格外の野菜を食べてほしいという思いで、札幌市内の養護施設に提供したことがきっかけで養護施設の子供たちを畑に招待する「カレーライス畑」がはじまったという。また、地域の子供たちが脱穀した稲わらを東京で行われる農業イベントに持ち込み、東京に住んでいる子供たちと稲わらリースづくり体験も行っており、そうした活動が認められ、2018年には第2回食育活動表彰(農林水産大臣賞)を受賞。

 「近年はコロナ禍でなかなか集まる機会を作れないでいるが、子供たちが楽しんで真剣に取り組む姿に奮い立たせられている。農業は大変だけど楽しい部分もあるんだと伝えたい」と話す。

 自然の中で生きることにつながる大切な「食」に子供の頃から触れてもらうことは、彼らが過ごす時間の中で生きていくと思うし、農業という仕事を知ってもらうことは、将来の担い手や消費者につながっていくことだろう。

 

 

女性の力が活かせる農場            

農業は体力が必要で、どちらかというと男性が向いているという印象が強いが、東海林さんは、女性ならではの視点も必要だと話す。例えば、スーパーなどで買い物をするのは女性が多く、商品として並べた時のサイズ感や値段など、お客さんの目線で考えられるのは女性の強み。そのために、袋詰めの量や価格設定は東海林さんと女性スタッフが相談しながら行っている。

 そうした女性の力を農場で活かしてもらうため、子連れ出勤も可能としており、子供や家庭の都合を優先し、子供の看病による早退や家族旅行、学校行事などの予定は100%叶えるなど、勤務時間や勤務日数に配慮している。一緒に来た子供たちにはラベル貼りを手伝ってもらったり収穫した野菜を運んでもらったりと、ふるさとファームは、子供が農業とふれあう場にもなっているようだ。今年はスタッフの半数が子育て中の女性で、「雇用する側として、働きやすい場を作るのは自然なこと。自分も子育てをしているとみんなが助けてくれるので気持ちがわかるし、作業に遅れが出た分は次の日に頑張ればいい。子育て中の女性の働きやすさは大切にしたい」と、東海林さんは話す。

 

 

人と関わりを持つことが大切          

東海林さんは、農業を目指す人に向け次のように話してくれた。

新規就農する方は、相談できる相手を作ってほしい。農業は人と関わらなくていいイメージを持って相談に来る人もいるが、例えば、生産組合等が少ない札幌では、自分で販売まで考えていかなくてはならない。私は、主にコープさっぽろのご近所野菜コーナーに「札幌野菜」のロゴを入れたパッケージで販売したり、一部の品質の高いミニトマトは「札幌蕃茄(ばんか)」とブランディングし、きたキッチンのほか、有楽町のどさんこプラザにも納品している。人と関わることは、販路開拓や日々の交流等、どれを取り上げても欠かせないもの。お店の人やお客様、農業体験等、いろいろな場で知り合った方々を大切にしてほしい。

 

 

 

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