(仮称)浜里風力発電事業環境影響評価方法書に係る知事意見

○環境影響評価方法書に係る知事意見 (平成28年1月21日) 

1 総括的事項

(1)本方法書記載の事業計画については、前段の手続として提出された計画段階環境配慮書に対する知事意見において、対象事業実施区域の設定、事業の規模等の検討に当たって、重要野鳥生息地(IBA)の区域等の重要な自然環境のまとまりの場、希少鳥類の渡りや移動、自然景観の眺望に及ぼす重大な環境影響を回避又は十分な低減ができることを裏付ける科学的根拠を示すことができない場合は、対象事業実施区域の位置の変更及び事業の規模の大幅な縮小など、抜本的な事業計画の見直しを行うこととしたところである。

 しかし、本方法書は、これらの環境の状況に応じて、既存文献・資料や専門家等のヒアリング結果等が反映された客観的かつ具体的な検討を行わないまま、区域の面積が広い方が風力発電設備の配置検討の余地が大きく、より柔軟な環境配慮が可能であることとし、事業実施想定区域をそのまま対象事業実施区域としており、極めて不十分な内容となっている。

 本来、本方法書では、対象事業実施区域の設定の検討過程において、重要な動物の生息環境や希少鳥類の渡り・移動経路、利尻礼文サロベツ国立公園の緩衝地帯としての機能、また、国立公園の主要な眺望点から景観資源を眺望した場合の風力発電設備の介在状況などについて十分な検討を行い、これらの観点から、重大な環境影響を回避又は低減できる根拠を明らかにし、記載する必要がある。

 

(2)このような状況において、本方法書の記載内容のまま準備書の段階に手続きを進める場合は、2の個別的事項で指摘した内容を十分に踏まえ、方法書段階における調査、予測及び評価手法をどのように改善したのかについて、その検討経過を含め準備書において明らかにした上で、重大な環境影響を回避又は十分に低減できる根拠を明らかにするとともに、それらができない場合には、対象事業実施区域の位置及び事業の規模の大幅な変更などについて検討すること。

 

(3)準備書のインターネットでの公表に当たっては、印刷可能な状態にすることや、縦覧期間終了後も継続して公表しておくことなど、利便性の向上及び住民等との相互理解の促進に努めること。

 

2 個別的事項

(1)騒音及び超低周波音

 対象事業実施区域内の事業場に対する環境影響に関し、事業場の安全面に配慮した風力発電設備の配置の検討や可能な限りの離隔距離を確保すると知事意見に対する事業者の見解を示しているが、事業場に対する環境影響の回避又は低減の方針及びその調査、予測及び評価の手法が示されていない。

 このため、風力発電設備の稼働における騒音及び超低周波音による影響について、適切な調査地点を設定し、予測及び評価を行うこと。

    また、対象事業実施区域の周辺に位置する住居についても適切に調査、予測及び評価を行うこと。

 

(2)地形及び地質

 対象事業実施区域の全域は、砂丘・風紋を要素として日本の典型地形に選定されている「稚咲内」に含まれており、土地の改変による影響が懸念される。知事意見に対する見解の中で、事業者は現地調査により状況を確認し、事業実施による影響を予測、評価し、重要な地形(砂丘・風紋)への重大な環境影響を回避又は極力低減するよう努めるとしているが、具体的な方針が方法書の中で示されていない。

 対象事業実施区域は、利尻礼文サロベツ国立公園の区域の変更の際、国立公園の資質を維持するための緩衝地帯として普通地域の指定について審議された経過があることも踏まえ、現存する重要な地形(砂丘・風紋)の範囲を明らかにし、これを避けるとともに、止むを得ず避けることができない場合は、これらへの影響について、適切な方法により調査、予測及び評価を行うこと。

 

(3)風車の影

 対象事業実施区域内には、事業場が存在するが、この事業場に対する風車の影による環境影響の回避又は低減の方針が示されておらず、調査、予測及び評価の手法の選定も行われていない。

 このため、風力発電設備の稼働後における等時間日影図を作成し、当該事業場に対するシャドーフリッカーによる環境影響についても、適切に調査、予測及び評価を行うこと。

 

(4)動物

 対象事業実施区域及びその周辺は、希少鳥類を含む多様な鳥類が生息していることに加え、海ワシ類の主要な餌場となっている海岸線に近接していることから、バードストライクの発生、生息環境及び渡りへの重大な影響が懸念される。

 このため、鳥類に対する環境影響の調査、予測及び評価に当たって、次の事項に留意すること。
 希少猛禽類の渡りを含む鳥類の生息調査について、専門家へのヒアリングや一般的な鳥類の調査方法等を示した既存文献に基づいた調査、予測及び評価手法を示しているが、対象事業実施区域はIBAに選定されている区域を含むこと、対象事業実施区域及びその周辺が国指定及び道指定鳥獣保護区となっていること、ラムサール条約登録湿地に近接するなど、鳥類の生息環境のポテンシャルの高さを考慮した上で、適切な調査時期及び回数とするとともに、その根拠を示すこと。

 海岸線に近接する風力発電設備では、バードストライクが発生する確率が極めて高く、対象事業実施区域に近接する既設の風力発電設備においてバードストライクが数件発生している事実も踏まえ、バードストライクの発生を十分に低減できるよう海岸線との距離を確保するとともに、その根拠を示すこと。

ウ ブレードへの衝突確率の推定に当たっては、事業者が示した文献のほか、入手可能な最新の文献・資料等から適切な方法を選択するとともに、近接する既設風力発電設備におけるオジロワシのバードストライクの発生事例を参考として、専門家等の助言を得て、予測に用いた衝突率の妥当性を検討すること。

 その予測及び評価結果に基づき、衝突回避のための空間の確保の考え方が風力発電設備の設置検討の際に、どのように反映されたのかを示すほか、衝突事故発生頻度の推定のために適切な事後調査を行うこと。

 対象事業実施区域は、オオヒシクイの渡りのルートになっているほか、重要な鳥類が数多く確認されているため、対象事業実施区域からIBAの区域を除外することを検討する必要があるが、除外しない場合は、重大な影響を回避・低減するとともに、その根拠を示すこと。

オ ペンケ沼、パンケ沼周辺湿地を含む下サロベツ原野では、近年、継続してタンチョウの繁殖が確認されており、今後も生息分布拡大の可能性があることから、北海道における個体群維持に非常に重要な意味を持つものである。

 このため、専門家からのヒアリングの際に指摘された「飛行・移動経路確認手法」の実施時期及び実施方法等を明らかにし、その予測及び評価結果に基づき、確実に生息状況を把握するとともに、将来的な生息環境の保全にも十分留意し、専門家等から最新の生息情報を入手するなど、今後のタンチョウの生息分布拡大に影響を及ぼさない計画とし、その根拠を示すこと。

 

(5)植物

 対象事業実施区域は、学術的価値の高い利尻礼文サロベツ国立公園の特別保護地区に隣接しており、風力発電設備の基礎工事等に伴う周辺地下水の変化などによる国立公園内の湿性植生及びミズナラ、カシワを主体とする砂丘林への影響が懸念されるが、十分な離隔距離を確保するなどの重大な環境影響を回避又は低減するための具体的な方針が示されていない。

 このため、風力発電設備の基礎工事等に伴う地下水位の変化に対する環境保全措置について、幅広く専門家の助言を得ながら、適切な工事工法の採用や風力発電設備の配置等の方針を明らかにするとともに、重大な環境影響を回避又は十分に低減するため、適切に調査、予測及び評価を行うこと。

 

(6)生態系

 対象事業実施区域及びその周辺は、砂丘林等の自然度の高い重要な自然環境のまとまりの場が存在しており、特に、動植物の生息・生育環境の保全に配慮すべき地域であるが、本方法書では、事業の実施による環境の変化が注目種に及ぼす影響について予測する手法を示していない。

 このため、地域の特性に応じた注目種の選定に当たって、専門家等の助言を得ながら、複数種を候補にするとともに、好適性区分面積等の解析は、対象事業実施区域及びその周辺の現況を十分に再現できる手法を用いて的確に把握の上、土地の改変による影響のみならず施設の稼働に伴う忌避行動等を含め環境の変化による影響を適切に調査、予測及び評価を行うこと。

 

(7)景観

 対象事業実施区域の周辺は、利尻礼文サロベツ国立公園に指定され、湖沼、海岸、山岳景観が一体となって織りなす風景が優れた自然の風景地となっているが、風力発電設備の配置によっては、国立公園内の主要な眺望点である幌延ビジターセンター、北緯45度モニュメント、サロベツ原野駐車公園及び道道106号稚内天塩線から利尻島、抜海・稚咲内海岸の眺望景観に重大な支障を及ぼすおそれがある。

 事業者は、幌延ビジターセンターから利尻島を眺望した場合の影響の程度のみによって調査、予測及び評価を行っているが、主要な眺望点から国立公園を形成する景観資源への風力発電設備の介在状況について適切に調査、予測及び評価する手法を示していない。

 このため、主要な眺望点からの眺望景観の変化の程度の調査に当たっては、当該国立公園が山岳、海食崖、湿原、海岸砂丘など変化に富む景観を有していることを考慮し、利尻島に限らず適切な景観資源を抽出し、主要な眺望点から眺望した場合の風力発電設備の介在状況について、適切に調査、予測及び評価を行うこと。

 

(8)累積的影響

 対象事業実施区域及びその周辺では、既設風力発電設備が近接するほか、他事業者の風力発電事業の計画が進められているため、関係する環境影響評価項目に係る累積的な影響について調査、予測及び評価する必要がある。

 しかし、本方法書では、明らかになっている情報を踏まえて、必要性を検討した上で影響についての予測を行うとしており、関係する環境影響評価項目について確実に行うとの方針を示していない。

 このため、関係する環境影響評価項目について、明らかになっている情報に加え、今後、他事業者と協働して調査等を行い、そこで得られた情報を基に、専門家等で組織する検討会などで他事業との累積的影響について予測及び評価を行うこと。

 

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