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 「やっと、図書館が見えてきたわ」
ちいちゃんが言ったとき、いきなり大つぶの雨が降り出しました。にわか雨です。
 二人は、急いで道ばたの文ぼう具店の軒下にひなんしました。でも、ひさしがせまいので、車いすのちいちゃんに雨が降りかかります。少し先を見ると、小さな公園にあざやかな色のパラソルが見えました。
 たっくんは、かぶっていた自分のぼうしを、ギュッと深めに、ちいちゃんにかぶせました。
 「走るよ」
と声をかけ、グリップをにぎり直し、ぐいぐいと車いすを押して、赤と白のパラソルの下に、すべりこみました。
 「なんだか、すごいぼうけんをしているみたいだな」
 「本当ね」
ちいちゃんは、たっくんのお気に入りのぼうしをハンカチでていねいにふいて、たっくんに返しました。たっくんは、雨のしずくが光っているちいちゃんのおさげを、ちょっと乱暴にふいてあげました。
 「ちょうどあの日も、雨だったわ」
 小降りになってきた雨を見つめながら、ちいちゃんが、つぶやきました。
 「今から2年前の、こんな雨の日。大好きな人形劇を見に行った帰り、横断歩道をわたっていたら、スリップした車がキーッと急ブレーキの音をたてながらつっこんできたの。気がついたら、病院のベッドの上だったわ。それから、3ヵ月の入院。検査や手術、そして、リハビリもがんばったけど…大好きなドッジボールもスキーもできなくなっちゃったの」
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 たっくんは、じっと耳をかたむけました。
 「退院しても、すぐには学校にも行けなかったし、友だちとも遊べない。毎日がつまらなくて、イライラして、お父さんとお母さんに『ねえ、どうして私の足、動かないの?』って泣きじゃくったりしたの。お父さんとお母さんも泣きながら、私を力いっぱいだきしめてくれたわ。お父さんのなみだを見たのも、あんなに苦しそうなお母さんの声を聞いたのも、初めてだった…」
 たっくんも、こんなちいちゃんを見たのは、初めてでした。
 「車いすの生活になってからも、たくさんの人から、はげましややさしさをいっぱいもらったわ。そしたら、クヨクヨして、何でも足のせいにしている自分がはずかしくなっちゃった…今は、もう一度スポーツにもちょうせんしたいし、みんなにもらったやさしさを、自分ができるボランティア活動で、お返ししたいと思っているの」
 たっくんは、雨の上がった空の青さをふりあおぎました。そうでもしないと、目から熱い雨が降りそうだったのです。
 「さあ、図書館では、みんなが、ちいちゃんの読み聞かせを、今か今かと待っているよ」
  たっくんは、力強く車いすを押し始めました。

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