
駅前を通り過ぎてすぐ、急な上り坂になりました。たっくんは、もどされないように、一歩一歩しっかりと車いすを押していきました。
部活動の帰りなのでしょうか。高校生が、笑いあいながら、楽しそうに坂を下りて行きます。
「たっくん、坂道で大変でしょう。だいじょうぶ?」
ちいちゃんも心配そうに声をかけます。
「平気だよ。日ごろ、サッカーできたえているからね」
と言ってはみたものの、だんだん息があらくなっていくのが分かります。
坂の上からは何組もの高校生が下りてきますが、みんな話に夢中で、二人には目もくれません。
さすがのたっくんも、これ以上、上ることができなくなり、ブレーキをかけて一休みすることにしました。
そのときです。
「すみません。車いすを一緒に押してくれませんか?」
ちいちゃんの明るい声がひびきました。通り過ぎようとした二人の高校生が、車いすを見て、はっとしたように立ち止まり、
「大変だね」
と言って、気持ちよく手を貸してくれました。
二人の助けで、車いすは、なんなく坂を上りきりました。
『そうか。困ったときには、自分から声をかければいいんだ。そしたら、気づいて協力してもらえるんだ』
たっくんは、ちいちゃんにまた一つ教えられたような気がしました。
「ありがとうございました」
二人は、ぴょこんと頭を下げました。
「気をつけてね」
手をふって、高校生はまた楽しそうにおしゃべりしながら、行ってしまいました。
ちいちゃんとたっくんは、何とも言えないあたたかい空気につつまれていたのでした。 |