北の総合診療医 - その先の、地域医療へ(羽幌3)

道立羽幌病院

医師 山﨑孝明 医師

2022.06.07 記事

人として患者を診たい
総合診療医を目指して

山﨑孝明医師は、金沢大学医薬保健学域医学類を卒業した後の進路として眼科と総合診療で悩んでいました。どちらにも魅力を感じていましたが、人よりも病気を診るイメージの臓器別専門医よりも、町医者に憧れ、より幅広く人として患者を診たいということもあって、総合診療医を目指す道を選んだといいます。現在、道立羽幌病院のプログラムに沿って、総合診療医を目指して研修を受けています。研修内容や難しさなどを説明してもらいました。

憧れの北海道
研修で地域の実状を実感

山﨑医師は千葉県出身です。学生時代に北海道を一周した際、富良野の景色を一目見た時から北海道で働くことが夢だったといいます。専攻医として総合診療医を学ぶにあたり、北海道の中でも地域医療が学べる所にしたいと考え、道立羽幌病院を選びました。実際に研修を受け始めると、それまでの観光では地域医療の現状が見えていなかったことを実感したといいます。

「金沢大学がある石川県では、ほとんどの地域で困ったことがあれば近くに病院があり、救急車ですぐに到着できます。しかし、留萌管内だと場所によっては急性期を担う留萌市立病院まで40分近くかかってしまいます。心筋梗塞など急を要する疾患の場合、ドクターヘリを呼ぶこともあります」。

こうした地理的な課題もあって、皮膚科や整形外科なども含め、診る病気の範囲がとても広く、さらに家庭の背景、社会的状況なども併せて、個々人に合った治療を組み立てていかなければならない点が地域における総合診療に求められるスキルであり、「否が応でも病気よりも人を診る治療になります」と山﨑医師はいいます。

背景から病気がみえてくる
総合診療は難しいがやりがいを感じる

  • 背景から病気がみえてくる総合診療は難しいがやりがいを感じる

山﨑医師は、これまで研修してきた中で印象深かった患者として、ある1人の高齢患者を挙げます。その患者は複数の合併症を抱え、不定愁訴で何度も受診し、対応に苦慮することもありました。しかし、家庭環境を詳しく伺うと、視覚障がいのある息子と二人暮らし、経済的に困窮しており、家の中がかなり散らかっているような状況が分かりました。そこに介入していくことでしっかりと食事を摂るようになり、生活全体が改善して、そのうち病状が安定していきました。「ただ、患者が訴える症状だけを診て対応していたら、きっと体調を改善することは難しかったと思います」と振り返ります。患者が病院に来て病状を訴える裏にはどういった問題を抱えているのか、そこまでみて行かなければ、本当の治療にはつながっていかないことを実感したといいます。

「こうした日々の診療の中で、さまざまなことを学んでいますが、普段は私の考えを尊重し、問題が無ければ自由にやっていいという教育で、何か課題に直面すれば先輩医師が助けてくれます。私にとっては、とてもよい教育環境です」。

2021年には何度か天売島、焼尻島で離島医療を経験しました。

「まさにへき地医療という状況で、限られた検査機器を使って身体所見をみて、病歴を調べます。どこまで病気に迫ることができるか、厳しい環境でしたがたくさんの事を学ぶことができました」。診療を行う疾患の範囲がとても広く、さまざまな疾患を経験できる点で難しい面があるものの、やりがいを感じることも多いといいます。

総合診療には、大学では学ばない特殊な患者の捉え方があるといいます。その一つがBio-Psycho-Social(BPS)モデルで、患者を遺伝子や体の構造などの生物学的な面、気分や行動といった心理学的な面、生活する社会や文化などの社会的な面という3つの側面から包括的にとらえるというモデルです。「診療を行い臨床技術を磨くとともに、自身でこうした学問体系を学び、臨床に役立て行くことが当面の目標です」。

メッセージ

道立羽幌病院には毎月学生が教育カリキュラムの一環として訪れています。「総合診療医に興味を持ってくれている学生でも、実際に地域における総合診療の実際を見てもらえれば、それまでイメージしていたことと大きく異なることが分かってもらえると思います。現場を知ってもらう意味でも、多くの学生に見学に来てもらいたいです」。

また、総合診療は学びの範囲が広くて深いことが魅力で「日々新しい学びがあり、飽きることはありません。すでに医師となっている方々には、自分の専門を何年か休んで総合診療を学ぶ方法もありだと思います」。

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