北の総合診療医 - その先の、地域医療へ(江差2)

道立江差病院

医長 杉原伸明 医師

2022.11.08 記事

プロフィール
北海道帯広市出身
2015年 自治医科大学を卒業
2015年 江別市立病院 初期臨床研修
2017年 北海道家庭医療学センター 家庭医療専門医研修開始
2017年 帯広協会病院 総合診療科
2018年 町立寿都診療所 家庭医療科
2019年 利尻島国保中央病院 総合診療科
2020年 若草ファミリークリニック 家庭医療科
2021年 帯広協会病院 総合診療科
2022年 道立江差病院 総合診療科に勤務
2022年 家庭医療専門医 取得
資格
日本プライマリ・ケア学会 家庭医療専門医・指導医
趣味
ドライブ、温泉、パン屋巡り
座右の銘・モットー
ピンチはチャンス、着眼大局着手小局

この度、前任地に引き続き二度目のインタビューとなった杉原先生。クールで早口な語り口調には隙のない印象がありますが、「教えるのが好き」と公言するくらい世話焼きな一面もあるとのこと。現在絶賛子育て中で家に帰ればわんぱくな子どもたちが待っている杉原先生に、総合診療医にかける思いや魅力をたっぷり聞かせていただきました。

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総合診療の道に進んだ理由

学生時代には回った科全てに魅力を感じるというのはあって、消化器内科、外科、整形外科、循環器内科などなど、色々興味はありましたが、明確に目指すというところまではいかずにふわふわと研修医時代を過ごしていました。

ただ、元々総合診療のようなことをやりたいというのは核としてあって、医者をやるなら医療知識を持ったプロとして地域全体を良くすることにも関心がありましたし、そういう意味でへき地を含めた地域医療に貢献したいという意識は持っていましたね。

でも、医者の専門は何にすべきかっていうことを考えた時に、なんとなく「やさしいやぶ医者」みたいになるのは嫌だったので、そういう「ちょっと捉えにくい総合性」みたいなものを学問に基づいて「専門性」とすることに魅力を感じて総合診療の道に進もうと決めました。

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殻を破る

専攻医となったはじめは「医者という鎧」を着ていたような感じで、医者たるもの常に冷静沈着で正しい判断ができなければならない、という意識が強くて、ある意味固定観念に縛られていたような感じでした。多職種連携をうまくやるにはスタッフに対する指示はきちっと明確に出そうとか、問題が起きないように配慮しながらうまくやろうとか、変な使命感に縛られて、逆にスタッフとの連携がうまくいかなかった時期があったんです。

そこで、いい意味で「なげやり」になるというか、「自分の悩みや欠点、弱みもひっくるめて全部出してしまおう、その上で患者さんのケアを相談してみよう」と思い切って意識を変えて肩の力を抜いてみたら、周りのスタッフにも変化があって「先生いきなり変わったね」「なんか話しやすいし相談しやすい。いいね!」って言われるようになったんです。

「あ、これでいいんだ」って、一つ殻が破れたなって感覚がありました。

医療の知識は道具である

その頃から患者さんに対しても決めつけの医療ではなく、柔軟な対応ができるようになったなと思います。例えば、痛みで苦しむガン末期の患者さんに点滴の治療が必要な状態で、でも患者さんは点滴そのものを本気で嫌がっていて、それをどううまくやるのかなど、すぐに答えが出ないような問題に出くわしたときに問われるわけです。

総合診療医にとって、患者さんの病気を良くするというのはもちろんなんですけど、患者さんの“生き方”を尊重して心理面のケアをするのも重要な役割という中で、医療として正しいことをすべきなのか、患者さんにとって正しいことをすべきなのか。

答えはいつも違いますが、医療の知識を患者さんを癒やすひとつの「道具」として上手に活用し、患者さんにとってより良い方法を考えるというのはいつも同じです。

患者さんの身体に留まらず様々な背景や事情を踏まえ、患者さんの心理面に寄り添い、伴走していくのが総合診療医のあるべき姿だと思っています。

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総合診療医に向いている人

個人的には、たくさんのことに興味がある人、好奇心旺盛な人には特に向いていると思います。

あと、総合診療医は働く場を選ばないという強みがあります。今、全国どこでもすごく求められていて、都市部でもニーズがあるし、郡部ならなおさらニーズがあります。例えば、カテ室がある、手術ができるなどの特別な医療設備に縛られる必要がなく、病院、有床・無床診療所、訪問診療とどこでも働けます。なので、自分のライフサイクルや過ごす場所の選択を仕事に縛られたくない人には、ぜひ総合診療医がおすすめです。

利尻でスーパーマン扱い

卒後5年目に利尻島国保中央病院に赴任した時に、自分は普通にやっているだけなんですけど、みんなが自分のことを「すごい!ありがたい!」と言ってくれるんですよ。こんなに何でも診られるの?って。例えば「え?皮膚科とか子どものアトピーも診られるの?」とか「ワクチンの相談もできるの?」とか、私としては研修中実践してきたとおりに「科」という区切りはなく、あくまで「よくある疾患」を診ているだけなので、総合診療医としては当たり前のことなんですけど、それだけですごく感謝されて、総合診療・家庭医療の技術って本当に地域で求められているスキルなんだなと実感しました。

逆に自分に高度な専門性の修行中にへき地に行っていたらだいぶ苦しかっただろうなと思います。設備も薬もない状況で色んな制限があってやりたいことができないと思うんですよね。でも、総合診療は「やりたいこと=患者さんから求められること」なので、やっぱり場所を選びませんし、へき地こそ研修に打ってつけの場所だなと思います。

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江差病院の日常の診療

江差病院には様々な疾患を抱えた方が受診されます。健診の数値が悪くて予防医療のケアが必要な方から、複数の疾患を抱える高齢の患者さん、癌や慢性臓器障害の症状緩和を行う方、敗血症やショックといった重症な救急患者さんもよく訪れます。出張医の不在時には眼科・耳鼻科・皮膚科の診療を求められることもあります。

全科的診療を行う力が求められていると同時に、地域の患者さんに寄り添った全人的な医療を求められていると、常に感じています。

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専門医との連携の難しさ

江差で函館の専門医と連携するにあたっては、顔の見えない中で実践する難しさはありますね。

専門医との連携の質というのは患者さんの治療に直結する部分なのですごく重要ですし、こちらの説明次第、投げかけ次第で相手の先生の捉え方も変わって治療方針も変わる可能性があるので非常に神経を使います。

相手の先生も当然忙しいので頻繁に連絡を取るわけにもいきませんし、基本的に顔の見えない中で、先生の特性や状況を理解しながら、投げかける言葉や丁寧な説明、患者さんの理解度、などなど様々な要素を考慮して連携していくことに難しさを感じます。

ただ、難しい中でも試行錯誤で取り組んできて、連携の質は高いと評価ももらえており、紹介も増えている状況にありますし、他施設から「紹介しやすくなった」と言われているので、ある程度は良い病病連携、病診連携ができているものと思います。

へき地での終末期医療

最近は他院からの紹介でがん末期の患者さんを診ることが多くて、患者さん的には自分の治療は終わったんだなって絶望的な感覚で送られてくることが少なくないんですけど、症状を和らげて自分らしい時間を作る方法があるんだということを教えて痛みに寄り添うことを大切にしています。そして、何よりそういうことが話し合える関係性を築いて、患者さんとともに悩みながら、江差の地でなるべく自分らしく、という方を支えることには特にやりがいを持って臨んでいます。

ただ、へき地ならではの問題として、在宅医療を行うための人やモノ、サービスが足りない、という難題があり、よく悩まされます。御家族や御本人も納得した最期を迎えることができたとしても、医者としては「もうちょっと何かできなかったんだろうか」とジレンマを感じることは多いです。

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総合診療の教育について

多様なセッティングで専攻医の時に学びを受けるということは結構大事なポイントではないかと思います。総合診療というのは地域の特性によって求められるものが違います。診療所には診療所の、病院には病院の、都市部には都市部の、それぞれの総合診療のあり方に自分を合わせていってキャパシティを増やしたり、それぞれの共通項から学びを深めるのが確かな実践力にそのままつながっていきます。

大事なのは自らが経験したことが何の理論に基づいたものなのか、あるいはどの理論に基づいて実践したらより良い実践となるか、という照らし合わせの作業を都度繰り返すことだと思います。実践と理論を行ったり来たりする作業は学び多い研修に不可欠な作業であると考えています。

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北海道家庭医療学センターのフェローシップ

個人的にも今は北海道家庭医療学センターから提供されるフェローシップというプログラムを受講して、日々の診療、経営、教育といった実践と座学を往復させる形で様々な学びを深めています。

このプログラムはグループディスカッションなどを交えた講義がメインですが、非常に楽しく取り組めていて、一緒に学んでいる同期との情報交換にも役立っています。今現場で実践していることの意味づけを手伝ってくれる面もあるので、ある意味自分の精神ケアにもなっています。

現在進行形の将来像

現在も指導医として研修医や専攻医の教育にあたっていて、その成長過程に携わることの面白さも感じます。また、成長した後輩が今後総合診療医としてやりがいを持ってどんどん社会貢献していくのかと思うと、もの凄くやりがいを感じます。

総合診療医はそこまで特殊なことや高度なことをやっているわけではないと考えています。当たり前に患者さんに興味を持ち、当たり前に人と連携し、当たり前にコミュニケーションをとって、医学に限定した視野ではなく広い視野で患者さんに寄り添う医療を実践する。こういったことを背伸びせずにやりがいをもって楽しくやる、その地域の医者がそういう姿で居るということが、その地域の元気をつくることに役立つんですよね。それが総合診療医だと思っていて、そういう人材を増やすという社会的な課題に取り組んでいきたいと思っています。

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江差病院での研修メリット

当院は地域の基幹病院で、思っているよりも多くの重症患者さんが運ばれてくるので、救急医療に関しては不足を感じないセッティングを経験できます。また、ウォークインも含めて疾患の重症度も高く、マネジメント能力を試されるという意味で内科、感染症科や消化器内科を中心に実践を深めやすい病院です。

一方で、かかりつけ医が居ないために包括的ケアや社会的ケアをうまく受けられていない患者さんも多く居て、そういった患者さんに対処することで、総合診療医として求められる能力が実践で鍛えられます。

また、多職種連携も非常にやりやすい空気があって、看護師さんもオープンだし教育的だし、医者とコミュニケーションをとることに慣れています。若手医師に対する歓迎ムードがこれほど感じられる病院は結構稀だと思います。今年も他病院の研修医が5人ほど来ましたけど満足度は非常に高いそうです。

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総合診療医を目指す学生へメッセージ

医療はとても複雑です。求められる医学知識が膨大なだけでなく、患者さんに寄り添うため、あるいは他科の医師や多職種協働をお互いに気持ちよく行うためのコミュニケーションスキルも同時に要求されます。患者さんが抱える問題も医学的なものだけでなく、家族関係や複雑な心理社会的問題が絡んでいることも少なくありません。

総合診療科の専門研修では、こうした複雑な医療をなるべく構造化して捉える力、メタ認知力を育てるための知識と機会を与えてくれます。これはなんとなく良い医療を行う、ということとは別次元で、自分の中の「あたりまえ」の医療実践レベルをどんどん上げてくれます。つまり、患者さんにとっての「良いお医者さん」を自然と目指せる研修であり、やりがいに満ちています。

膨大な医学知識も、予め準備するのは困難ですから実際には実践しながら学んでいきます。はじめに集中して身につけるのは「よくある疾患」の知識がほとんどです。実際に研修先で1年間真面目に医療に取り組んでいたら、「よくある疾患」は当然よく出会いますから、その研修先で必要な医学知識の大半が自然と身につくようになっています。総合診療科は決してスーパーマンでなくても研修をやり遂げ、専門医取得後も地域社会に貢献しながら学び続けられる、多くの人に目指してほしいやりがいのある科です。

自らのライフイベントも診療に活かせるという特異な魅力も持ち合わせています。是非自信と期待を持って総合診療医を目指してください!

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