北の総合診療医 - その先の、地域医療へ|寿都診療所5

寿都町立寿都診療所

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2019.03.29 記事

寿都診療所は、14年前に道立寿都病院から町に移管され、町立の有床診療所として新たにスタートを切りました。険しい道のりだった診療所の開設に導いたのが、現在5期目の片岡町長です。開設に至るまでの経緯、そして、診療所がまちに果たしている役割についてお伺いしました。

年度末を前に町役場のみなさんが多忙なお仕事をされている1月、にこやかな表情で取材スタッフを出迎えてくれた片岡町長。まずは、診療所が町に果たしている役割についてお聞きしたところ、
「診療所が開設してから4月で14年。診療所はすっかり町に根付いています。これといって新鮮味がなくなったほどに、ありがたさが当たり前に思える存在です」。
診療所が“当たり前の存在”になった…とのお言葉。いったいどういうことなのでしょうか。それは、診療所を開設に導き、今日まで支え見続けてきた片岡町長しか語れない言葉でした。

常駐する医師がいて町の医療を支えてくれるありがたい診療所

片岡町長が就任したのは、4億円もの赤字を抱えていた道立病院を廃止するか、町に移管するかをめぐって揺れていた2001年。

「移管に向けての協議をスタートしたのが、私が就任して最初の仕事でした」。

町から病院がなくなることによる住民への影響の大きさを第一に考えた片岡町長は、道立病院を町に移管し、町立診療所として再生することを英断しました。

診療所の開設に向けて動き出したものの、立ちはだかったのは至上命題である医師の確保。

「問題は医師なんですよ。どこを探しても医師はひとりもいませんでした」。

困り果てていたあるとき、片岡町長が耳にしたのは、常勤の医師が確保できなくなった診療所が、総合診療医を派遣してもらう形で医療を継続している、更別村のケースでした。

「『こんな素晴らしい地域医療はない』と聞いて、これはいいなと思いました」。

すぐさま、北海道家庭医療学センターの設立に尽力した、日鋼記念病院(室蘭市)の西村昭男理事長(当時、故人)に支援をお願いし、医師3人と看護師・薬剤師等の医療スタッフ14人を送り込んでもらえることになったのです。

「どの地域も医師を確保することで困っています。首長にとっては大変なことです。寿都町は医師確保の問題を早期に解決できた、モデルケースになるのではないかと思います」。

こうして2005年4月に開設された寿都診療所は順調に歩み続け、2018年4月から北海道家庭医療学センターが指定管理者として運営を受託し、公設民営になりました。

「“当たり前の存在”になるほどに、診療所は住民たちの医療を支えてくれています。寿都は今、最高の状態で医療を担ってくれる先生がいて助かっています」。

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診療所のスタッフと住民たちのつながり

当たり前というほどに町に根差した診療所ですが、“当たり前”という状態について、片岡町長は、住民たちとのふれ合いを例に挙げて話してくれました。

「診療所が開設したころ、『鍋クラブ』という我々の年代のグループがあって、3か月に1回ほど、魚の刺身や鍋物ができると診療所の先生方を呼んで、お酒を飲みながらワイワイやったりしたんです」。

漁師町寿都ならではの、住民と診療所スタッフの交流はとても賑やかそうです。毎年7月に開催される寿都神社祭も、住民たちとの親睦を深める場になっています。

「診療所の先生方もスタッフのみなさんも町中を練り歩くんです。そこで町のみなさんと気さくに酒を飲み食べながらお祭りを楽しみ、お互いがより近くなるんです」。

こうした交流を通して、診療所での医師の顔と、普段の住民の顔を、住民たちはみな知っているのだそうです。

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寿都診療所と町との自然体の関係

「若い先生が同じ目線に立って診てくれる。医者の鑑です。先生方を見ながら感謝しています」。

町と診療所の関係についてお伺いしたところ、片岡町長は、先生たちを医療人だとほとんど意識することなく付き合い、何でも話し合える関係が築かれているといいます。日頃から町長自ら診療所に顔を出したり、先生方もときどき町長室を訪れて現状報告をしているそうです。

「私は不器用なので、思ったことを先生の前でも喋ってしまうんです。『先生たちは医療のことは知っているかもしれないけど、私は人生の先輩だから、たまには私の話を聞かなきゃなめだよ』と」。

気さくな片岡町長と、診療所の先生方との緊密なつながり。うまくいく秘訣はあるのでしょうか。

「取り立てて秘訣はないです。診療所の先生たちには、老人クラブや小学校、中学校、高校などで、健康教室などの保健活動をしてもらっています。町民課の保健師さんを含めて連携して行いますが、自然体でやっています。肩張らないで冗談言えるという自然体なんですね。心はいつもひとつですよという」。

地域に根付いた診療所のありがたみ

診療所に移管して14年ほどが経った今、町内の約7割がこの診療所を受診します。それだけ診療所が地域に欠かせない存在であることがうかがえます。

「寿都町は何よりもお年寄りが多いので、年に40人くらいが亡くなっています。そのうち自宅で亡くなる人は年に1~2人で、ほとんどは診療所で看取っています。お通夜に行くと必ず『診療所にはいろいろお世話になりました』と、ご家族から感謝の言葉とお礼を言われます」。

ご家族からの感謝の言葉を伝えられるたびに、「みなさんが助かっている診療所なんだな」と実感しているという片岡町長。

「スタッフみなさんは本当に優しくて、町の人々に良くしてくれます。これだけ人口減少の中で暮らしやすい町にしてくれています。ありがたいことです」。

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今後のまちづくりを見据えて考えていること

寿都町の人口は3000人を割り込み、過疎化と高齢化が進んでいます。片岡町長は、人口減少への対策も含めながら、今後のまちづくりを具体的にどうしていくかについて考えていました。

今後のまちの医療を見据えて思い描いていることを、公明正大に教えてくださいました。

高齢化や人口減少が進む中で、住民の医療や診療所を安定的に運営していくためには、何らかの転換を図ることも視野に入れているということです。

診療所の今後を見据えて、もうひとつ片岡町長が考えることがありました。

「民間の医院と公的な診療所が、こんなに仲が良いというのは珍しいのではないかと思います」。
町には寿都診療所のほかに、民間の祁答院(きどういん)医院があります。外科出身の祁答院先生は、診療所の先生より10歳以上年上ですが、親しく交流してお互いに学び合っているそうです。

「祁答院先生と診療所との間には意思疎通があるわけですから、寿都診療所と民間の祁答院医院がひとつのグループとして、地域医療に取り組むことが地域や住民の一番の願いではないかと、私が勝手に思っています」。

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診療所のスタッフが働きやすい体制をつくるのが行政の役割

片岡町長のお話は、あくまで視野に入れている段階ということですが、町長が何よりも一番に考えているのは、町として診療所をしっかりと支えていく強い思いでした。

「診療所は赤字ではありますが、町のみなさんの健康を守っていただける必要経費です。これだけ診療所のスタッフに一生懸命やっていただいているのに、赤字という言葉は非常に失礼な話。私は議会にも町民のみなさんにも『赤字という言葉はタブーですよ』と言っています。これはやはり、心と心との信頼関係の中で大事なことだと思います」。

築き上げた町と診療所の信頼関係を、揺らぐことなく深めていく片岡町長の思い…。

「町としては、必要な費用をしっかりと充てる。とにかく働きやすい環境づくりをして、診療所を支えていくことが大事だと考えます。先生方が寿都町に来てストレスを溜めることなく、仕事ができる体制をつくるのが、我々の役目です」。

寿都町立寿都診療所のほかの医療スタッフのインタビューもご覧ください

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