北の総合診療医 - その先の、地域医療へ|ブナの森診療所3

黒松内町国保くろまつない ブナの森診療所

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2019.03.29 記事

「一人ひとりがどのような人生を送りたいのかという意志を尊重し、人生そのものを支えていく診療所です…」。黒松内町国保くろまつない ブナの森診療所の開設から、看護スタッフを率いる祐川さん。介護・福祉施設が多い町の住民の医療、健康を支える取り組みについてお話を伺いました。

様々な場で患者さんを支えられるオールラウンドに動ける看護集団

祐川さんは勤医協の職員として、各地の病院、診療所に勤務してきたベテランです。勤医協黒松内診療所に2015年から働いていた祐川さんは、黒松内町国保くろまつない ブナの森診療所の開設時から看護師長として体制づくりに携わりました。

国保病院で働いてきた看護師と、勤医協出身の看護師が一緒に働くことについてお話を聞きました。

「開院の2か月前に、国保病院から移ってくる看護師さんに、勤医協黒松内診療所に来ていただいて勉強会をしたり、お互いに意思疎通を図ってもらえるように2回ほど看護師ミーティングを開きました」と当時を振り返ります。

国保病院の看護師さんの中には、初めて知る総合診療に不安を感じることもあったといいます。このため、「開院から10日間の夜間外来は、夜勤の看護師さん2人で対応したのですが、国保病院から来た看護師さんと勤医協の看護師をあえてペアにして職務にあたってもらいました」とのこと。

それによって、疾患だけではなく患者さんの生活や抱えている問題などを幅広く診る、総合診療への理解を深めてもらい、今ではお互いが同じ目線で看護に臨むことができているそうです。

看護スタッフは現在、パート看護師1人、助手1人を合わせて17人。病棟、外来、訪問診療の3つの部門に分かれていますが、その時々の状況で支援できるように担当を区分していないといいます。

「1人の患者さんが外来を受診しているときもあれば、入院しているときもあるので、看護師がいろいろな場で患者さんを支えられる、オールラウンドに動ける看護集団になっています」と祐川さん。

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医療・看護の質の向上を目指す活動方針

住み慣れた地域で安心して暮らしたいという、町民の願いに応える医療と看護の提供を実践している、黒松内町国保くろまつない ブナの森診療所。看護チームは毎年、活動の方針、目標、計画を定めて、達成に向けて取り組んでいます。

活動目標は看護過程の充実、慢性疾患の全身管理、看護研究、地域連携の4つが大きな柱。今年度、目標をバージョンアップしたのは、看護過程の充実を図ることです。

「院内の看護で完結させるのではなく、年間で100回近く開催されるサービス担当者会議で、ケアマネージャーが提示する個別のケアプランに、診療所の看護はどのようにケアを提供するのか、自分たちの看護計画を提示し、ケアプランに反映されていくよう働きかけています。地域で生活している人たちの生活支援をどうするか。ケアマネージャーのケアプランを中心として、診療所はどのような看護を提供するのか、より具体化したものを地域と共有していく。そうしていくことで、もっとケアプランが深まると考えチャレンジしています」。

まさに総合診療を実践しているブナの森診療所における、看護の取り組みが伝わってきます。

介護・福祉施設との連携の強化

在宅療養支援診療所として町内の訪問看護ステーションや、デイサービス、ヘルパーステーション、高優賃とも連携、高優賃入居者への訪問診療や往診を実施。夜間・休日も急患に対応しています。

介護・福祉施設のうち、養護老人ホーム、リハビリセンター、障がい児施設の3つは診療所から訪問診療を行っています。老人福祉施設や特別養護老人ホームの入所者は老健の施設長が診ていますが、入院加療が必要な場合は診療所が受け入れています。そうした介護・福祉施設との連携について、祐川さんは例を挙げて説明してくれました。

「今年3月から、特養と老健の診療所との間で連携会議を開いています。今後は必要に応じて3か月に1回ほど開催していきますが、やはり事例検討やカンファレンスが大事だという共通の認識ができたので、今までよりももっと気軽に、必要に応じてカンファレンスをしていければいいなと思います。私たちがわかっていない情報をもっと共有することで、患者さん像も膨らみますし、どんなことが求められるのかということがより深く考えられるかなと思います」。

多くの介護・福祉施設がある“福祉のまち”での連携

「施設との密接な連携は、小規模で人口の少ない町だから可能なんです」と話す祐川さん。しかし、「施設の入所者さんについては、施設の職員さんのほうがよくわかっていたりします。在宅のことは訪問看護師さんにはかなわなかったりするので、去年の夏ごろから診療所の訪問看護部門と月1回、連携会議を開いています」と町の施設と診療所の連携の大切さを話します。

「在宅の訪問看護師さんと私たちの行うケアが、全部が全部一致するわけではないけれど、お互いに交わりながら患者さんに対する看護ケアをしていくところでは、さらにより良いものを作り合うことが大事です。今後は診療所の看護カンファレンスで、もっと話し合えればいいかなと考えています」。

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意義のあるカンファレンスを行うために日頃の関係づくりが大切

看護スタッフはもちろん、総合診療医、薬剤師など多職種が協働する中で、祐川さんが大事にしていることは「一番はカンファレンスになると思います」。

ここでは医師、看護師、事務職も含めたカンファレンスを外来と病棟それぞれで行い、気になっている患者さんをリストアップし様々な情報を集約して共有しています。家族の意向や子供の住所など、カルテだけではわからない患者さんの背景も、ホワイトボードに書きまとめて全員が把握しています。

より意義のあるカンファレンスにするために、祐川さんが心がけていることがありました。

「日頃の関係づくりがまず大きいと思うんです。気になった事やお互いが考えている事を、いつでも気軽に相談し合い意見交換できる関係があるからこそ、カンファレンスできちんと患者さんを中心に据えて話し合うことができると思います」。

看護師の目線と共有する部分がある総合診療医

総合診療医について聞いてみると、「総合診療医は専門医とは視点が違いますね」と話してくれました。

「患者さんを診る視点というところでは、臓器や疾患の専門医は、どうしても疾患を専門に診なければいけないとは思うんですが、総合診療の先生たちの場合は、病気を診る前に、“人”そのものが先にあって、そこに様々な病気が関連しているという感じで診ていきます。そういう意味では、私たち看護師の目線とすごく共有する部分があります」。

総合診療医と同じ方向を向いて、患者さんを看護できていることを実感しているようです。

多職種のスタッフがアイデアを出し合える環境

ここでは、札幌にある勤医協の病院で働く看護師の研修を受け入れています。慣れない土地での研修を職員全員で支えています。

「去年の11月に、研修に来る看護師さんに向けた『体験プログラム』を作りました。私が流れをつくり、みんなにアイデアを出してもらってパンフレットにまとめました」と祐川さん。

看護師さんと職員が一緒に作成した体験プログラムは、「黒松内の看護師が目指すものはこういうことで、診療所ではこんな体験ができる、黒松内の暮らしにはこんな楽しみ方もあるといった内容を載せています。ここでどんなことを学びたいのか考えてきてもらって、黒松内を去るときに学んだことを私たちに伝えていってくださいというメッセージを載せています」。

これは、黒松内になかなか勤医協から看護師さんが異動して来ない状況をなんとかしたいと、スタッフのアイデアをもらい作成しました。体験プログラムは看護師がここに来る前に、札幌の勤医協の病院に送り見てもらっているといいます。

「黒松内に異動してくる看護師のみなさんは、不安がいっぱいだと思うんです。なので、せっかく来た6か月なりの貴重な研修期間に、いろんなことを学んで帰って欲しいですし、私たちも学ばせて欲しいという思いを形で伝えられればいいかなと思っています」。

一人ひとりの患者さんの人生を支えていく診療所

「看護師だけではなく様々な機関の人たちとの連携の中で、患者さんの生活に密着して関わり、その人の人生そのものを支えていく診療所です」と語る祐川さん。今後の目標について伺うと、

「今できていないということではありませんが、やはり一人ひとりの患者さんの意思決定というものを、どのように尊重していくかというところがすごく重要だなと最近は思っているんです。その人がどのような人生を送りたいのかということを一緒に考えながら、意志を尊重できるということが、診療所も施設も一緒に町全体でできればいいのかなと思っています」と話すとともに、「国全体の医療・介護・福祉のあり方がどうあるべきか、黒松内町から発信できるような地域包括ケアシステムにしていきたいと思います」と祐川看護師長は熱い思いを語ります。

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黒松内町国保くろまつない ブナの森診療所のほかの
医療スタッフや町長のインタビューもご覧ください

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