水産研究科(試験研究だより 「海藻のはなし4」)

 

● 試験研究だより ●

水産研究科

 
海草のはなし 4
 
○藻場の魚は何を食べているか

 これまでの連載で紹介してきた通り、沿岸の藻場に棲む生き物には実にさまざまな種類があり、その多くが魚類に餌として利用されています。しかしながら、魚はあらゆる餌をまんべんなく食べているわけではなく、種によって餌が異なり、それぞれが食性を反映した体型や口の形を持っています。大まかに分けますと、例えば次のような仲間がいます。
1. プランクトンを食べる魚
   スケトウダラなど本来沖合に生息する魚種のほか、沿岸性の魚にも、イカナゴなどプランクトンを主な餌としている種が存在します。餌の取り方にはスケトウダラのように細かいエラで濾し取るタイプと、ヨウジウオのように細い管状の口で吸い込むものとがいます。
2. アミ類を食べる魚
   海底近くを泳ぎ回るアミ類を主に食べている魚種です。この仲間には比較的食性の幅が狭いものが多く、例えばヒラメの幼魚では餌のほとんど全てがアミ類で占められ、成長も環境中のアミ類の量によって大きく違ってくることが知られています。
3. 魚類やエビ類を食べる魚
   移動能力の高い大型の餌を食べる仲間です。動きの速い大きな餌を捕まえなければならないわけですから、多くの種は大きな口、そして遊泳に適した筋肉質で流線型の体を持っています。アイナメの仲間やツマグロカジカなどがこの仲間に入ります。
4. 底生の小型甲殻類を食べる魚
   底表や植物の上で生活する小さな甲殻類を広く利用しています。口は比較的小さく、体型はさまざまですが、どちらかと言えば遊泳よりも岩場や海藻の茂みの間での生活に適した体を持っています。
5. ゴカイや二枚貝などを食べる魚種
   地中に棲む生き物を掘り出して食べる魚種です。一般に、底生生活に適した上下に平たい体型と下向きで小さい口を持つものが多く、マガレイなどカレイ類の多くやアイカジカがここに含まれます。

 魚種ごとの餌の違いは、当然、生息する魚類の種類や数にも影響を与えます。例えば「ゴカイ類はたくさんいるがアミ類はほとんどいない」というような場所では、マガレイは生活できてもヒラメの稚魚は餌不足のため生きていけません。たくさんの種類の魚が生息するためにはさまざまな餌がバランス良く生息している環境が必要となりますが、そうした環境の一つが海草の藻場なのです。
 

○「食いわけ」と「棲み分け」

 こうした魚種ごとの餌の違いは一見デタラメに思えますが、よく調べてみると一定のパターンがその背後にあることが分かります。例えば下の図のように餌生物の生息場所と移動能力という二つの要素を考えていろいろな餌を平面上に並べてみると、「移動能力が高い餌を食べる魚種」「移動能力が低い浮遊性の餌を食べる魚種」「移動能力が低い地中の餌を食べる魚種」というように、各グループごとに似たような性質の餌を選んでいることが分かるでしょう。
 このようにそれぞれの魚種が違った餌を食べることにより(これを「食い分け」と言います)、他の魚種との無用な競争が回避され、同じ場所にたくさんの魚種が生存できるようになるのです。こうした競争の回避は餌ばかりではなく棲み場所などについても行われていることが知られており(こちらは「棲み分け」と呼びます)、生態の研究では重要なテーマの一つとなっています。

 (つづく)

 
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図 藻場に出現する魚類の食性。魚種によって食べる餌が違い、その違いは主に餌の生息場所と運動能力によって分けられる。
 
(北海道原子力環境だよりVol.62 2002.3抜粋)

 



 
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