北の総合診療医 - その先の、地域医療へ(市立稚内2)

市立稚内病院

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2021.03.26 記事

プロフィール
兵庫県川西市出身
北海道大学医学部を2014年に卒業。同大学の分子生物学教室に進み、博士学位を取得後、2018年から市立稚内病院で初期臨床研修、2020年から専攻医として勤務

市立稚内病院は、新専門医制度の開始に合わせて「日本最北端総合診療医養成プログラム」を設置しています。大塚勇太郎医師は、市立稚内病院で2年間の初期研修を修了後、2020年から同プログラム第1号の専攻医として、総合内科の医員を務めています。将来は上川管内中川町で地域医療に携わることが目標という大塚医師に、総合診療の魅力や日々の学びについて話してもらいました。(インタビューは2020年12月、オンラインで行われました)

圏域の救急患者が集中、循環器内科医の不在が課題

基礎研究から地域医療へ
大好きな町の総合診療医を目指す

大塚医師は卒後7年目ながら、臨床医としては3年目です。北海道大学医学部を卒業後、研究へのあこがれから、すぐに基礎研究の道に進みました。生化学分野の分子生物学教室で、がん細胞の転移や浸潤に関する分子基盤の研究に取り組みましたが、「研究の面白味ややりがいはありましたが、一生をかけて何を解いていこうか、と考えたときに、自分には熱中できるテーマがなかった」と気づきました。そこで臨床へ方向転換し、ゆくゆくは大好きな町である中川町の医師になろうと決意しました。

小学生のころから化石が大好きだったという大塚医師。兵庫県から北海道に進学したのは、アンモナイト化石が有名だったからでした。特に中川町は世界有数の産地として知られ、学生時代から足しげく通ったそうです。「町の医者として地域に深く入り込み、子どもや若者と触れ合いながら、研究の考え方は忘れず、さまざまな活動ができればと考えました」。そのため、地域でさまざまな疾患を診ることができる医師になろうと、町から近く、ネットワークづくりにも便利な市立稚内病院を研修先に選びました。

さまざまな疾患を診て、他科や他院と素早く連携
地域医療では重要な役割

大塚医師は2年間の初期研修を終えると、そのまま市立稚内病院に総合診療の専攻医として残りました。1年目は内科の一員として定期外来を持たせてもらい、外来のない日は胃カメラや大腸カメラの検査を行い、夜間救急外来の内科当番や入院患者も担当します。総合内科には、本当にさまざまな患者さんが訪れます。「本来は眼科や耳鼻咽喉科、脳神経外科にかかるべき人もやって来ますが、最初に患者さんを診て、割り振りができるようになる。内科だけでなく、小児科や整形外科も診ることができなければなりません。これは将来、一人で地域に行ったときに重要な役割ですから、すごく勉強になっています。診療科が細分化された病院ではなかなかできない研修です」。

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市立稚内病院には循環器の常勤医がいません。したがって心筋梗塞等の一刻を争う疾患は、約170km離れた名寄市立総合病院や約240km離れた旭川市の病院などとの素早い連携が求められます。また、退院後はすぐに家に帰れるのかどうか、訪問診療が必要なのか、といったことについても、市内の道北勤医協宗谷医院との定期的なカンファレンスを通じて学びを深めています。「当院は、ただ疾患を診るだけでなく、そういったさまざまな医療や連携を学ぶ最適な環境です」と言い切ります。

とりわけ印象に残ったエピソードとして、ある末期がん患者さんのことを教えてくれました。退院先が見つからず、無理をさせて自宅へ帰してしまったところ、病状が悪化してすぐに戻ってきてしまいました。大塚医師が先頭に立って胃カメラやCT検査を行い、治療で体力が持ち直したのですが、「ここまで一人の先生がやってくれることはなかった」と感謝の言葉をもらったことが、すごくうれしかったそうです。「当院は人的余裕がなく、全て自分でやらなければならないところがありますが、逆にそれを感謝してもらえることは非常にありがたかったです」。

将来は地域の総合診療医を目指す人の手本に

医学部進学は、物心がついたころからの夢だったそうです。それは、子どものころのかかりつけ医にあこがれていたからです。一度は基礎研究の道に進みましたが、臨床医になってみると「意識していませんでしたが、かかりつけ医の姿が理想の医師像なのかもしれません」。患者に負担をかけずに重い病気を見つけられるようになる医師になって、将来的には中川町民に少しでも貢献できる人間になることが目標だといいます。中川町は稚内市と名寄市のちょうど中間にあり、両市の病院はもちろん、周辺のさまざまな医師ともつながりをつくっていこうと決意しています。

メッセージ

総合診療を目指す人でしたら、いろいろな科の手技に興味を持っているでしょうが、得手不得手にこだわらず、さまざまな科のことを学び、医学だけでなく、いろいろな学問や技術に興味をもち、研鑽に努めてください。自分もまだまだ始めたばかりですが、総合診療を目指す人の手本の医者になりたいと思っています。最後になりますが、中川町は本当に良い町ですので、ぜひ多くの人に知っていただきたいです。

市立稚内病院のほかの
医療スタッフのインタビューもご覧ください

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