検討評価調書【概要版】(トマムダム)

第1 トマムダム建設事業の概要

 1 事業着手の背景

 八戸沢川は、鵡川上流部の支川であり、これらの流域には上トマム市街地があり、また、農地やリゾート関連施設用地等として利用されている。また、この支川は、未改修河川及び河床勾配が急である等の流域特性も相まって、近年では、平成元年の降雨により上トマム市街地の一部において冠水被害を受けた。当流域は、益々リゾート関連施設としての利用が予想され洪水被害の増大が考えられることから治水対策が望まれていた。

 一方、トマム地区のリゾート開発に伴う関係従業員の人口増や公共施設などの増加に伴う水資源の確保は重要な課題となっていた。

 このため、平成4年に治水及び利水を目的としたトマムダム建設に着手した。

 

 2 トマムダム事業計画の概要 

 (1) 事業の目的

  •  鵡川上流部の水害を防除するとともに、ダム下流の流水の正常な機能の維持と増進を図る。あわせて、占冠村に水道用水を供給する。

  (2) 計画概要

  •  ダム地点における計画高水流量30立方メートル/sのうち23立方メートル/sの洪水調節を行うとともに、ダム下流の流水の正常な機能の維持と増進を図る。あわせて、占冠村の水道用水としてダム地点において、新たに1,100立方メートル/日の取水を可能とする。
  •  ダムの規模は、堤高14.9m、堤頂長350m、堤体積268,000立方メートルの均一型フィルダムである。

 

 3 事業の経過

 平成4年度に建設着手以降、平成8年度までに、周辺地域の雨量、八戸沢川の水位・流量、ダム建設予定地の地形・地質、環境調査等の諸調査を行った。

 

 4 再評価が必要になった要因          

 当初、中トマム地区のリゾート開発に伴って、上トマム地区では定住促進対策・企業誘致等を進めることとしていた。このため、同地区の公共関連施設や人口等が増加することにより水道用水が不足となるため、ダムにより確保する計画であった。

 しかし、その後、バブルの崩壊などによるリゾート開発の行き詰まりにより、当初計画の水需要の見通しが不透明となった。

 このため、平成9年度より公共事業の進捗を見合わせており、今後の進め方などを検討するため再評価作業を行うこととした。

 

第2 再評価にあたっての調査

 1 水需要の現状の把握

 上・中トマム地区の人口の状況は、平成4年のピーク時に比べると減少を続けているが、近年は、一時増加後、横這いにあり、水需要の状況は、平成3年のピーク時に比べると減少を続けているが、近年は微増傾向にある。

 また、平成4年7月10日には、上トマム地区で断水があったように、7~8月、12~1月に 給水量が一時的に増える期間がある。

 

 2 治水対策の再検討

 基本高水流量は、事業開始以降のデータを加えて、雨量・流量データ(平成8年度まで)の整理・検討を行った。

 この結果、鵡川合流地点で35立方メートル/s,ダム地点で30立方メートル/sとなり当初計画と変わらなかった。

 現況の流下能力は、八戸沢川道道21線橋地点で約10立方メートル/sとなりこれを確率評価すると1/5年程度の安全度となった。

 ダム案は、治水ダムとしてのダム規模の検討を行い、代替案は、生態系に配慮した河道計画を立案した。 

 

 3 事業に対する住民等の意識を把握するための意見集約

  (1) 地元自治体の意向

  •  占冠村からは、  
  •  「利水対策については、社会情勢の変化などにより鈍化しており、当面の水道水については、地下水等での対応が可能であること、治水対策については、ダム以外の代替案も示されていることから、トマムダム事業を当分見合わせることは、やむを得ない。なお、河道改修等により万全の治水対策を望む。」との意見があった。

  (2) 地元住民の意向

  •  住民からは、「代替案には、生息するオショロコマの保全など自然環境に配慮した新しい考えが反映されている。リゾート開発の中止やアルファコーポレーションの倒産と占冠村の人口減少の進む中、代替水源で対応できる。事業費の負担は、村財政を圧迫する。」とのダム建設に反対する意見が寄せられた。

第3 トマムダムに対する再評価

【検討の基本的視点】

 再評価作業にあたっては、治水対策の見直しや利水の現状、地方自治体及び住民の意向を踏まえながら、事業の必要性・妥当性等について判断していくものとする。

 

 1 必要性及び妥当性

 利水対策については、バブルの崩壊、リゾート開発の行き詰まり等により、当初計画した水需要量の必要性は、低くなったと考えられる。

 しかし、近年、水道用水は微増の傾向にあり、当面の対応は必要となっている。 

 治水対策については、八戸沢川が、未改修河川であり、安全度は、1/5程度と低いことや上トマム地区の公共関連施設整備等が進められていることから、その必要性はある。

 

 2 優先性

 利水対策については、上トマム地区の当面の水道用水が、地下水等により確保可能であることから、ダムによる水源確保の優先性は低いと考える。

 治水対策については、近年、大きな洪水被害が発生していないことから、現時点における緊急性は少ないと考える。

 

 3 住民意識

 住民意見として、水道用水は、代替水源で確保できること、また、自然環境に配慮した河道改修による代替案とすべき等の内容であった。

 

 4 代替性

 当面の利水対策については、地下水等での対応が可能である。

 また、治水対策については、河道改修による代替案の検討を行った結果、代替性はある。

 

第4 所管部としての考え方

 トマムダムは、鵡川上流部の水害を防除するとともに、ダム下流の流水の正常な機能の維持と増進を図る。あわせて、占冠村に水道用水を供給することを目的として平成4年度から諸調査を進めてきた。

 しかし、その後の社会経済情勢が変化し、景気の後退で今後の水需要が不透明となったことから平成9年度から事業の進捗を見合わせている状況にある。

 利水対策については、バブルの崩壊、リゾート開発の行き詰まり、さらには、今年に入ってからのアルファコーポレーションの倒産により当初計画した水需要量が見込まれなくなったと考えられる。

 また、上トマム地区の当面の水道用水は、地下水等により確保可能であることから、ダムに依存する必要性及び妥当性等は低下している。

 治水対策については、自然環境に配慮した河道改修による代替が可能である。

 このようなことから、トマムダムの建設事業は「中止」とすることが適当と考える。

 

第5 施策中止の影響と対処策

 治水対策については、安全度が低いこと、また、占冠村からは万全の治水対策を望む意見もある。このため、河道改修による具体的な計画を策定し、今後、流域の降雨や洪水被害等の状況及び道内の他河川の状況を勘案しながら、その整備を図る必要があると考える。

 地権者に対しては、事業が計画調査段階であり、用地補償や工事にも着手していないことから、特に影響はないと考えられる。

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