最終更新日:2020年10月16日(金)
■2016年12月6日
「子どもたちに伝える 農とくらし」を開催しました。(印刷版はこちら)
1.プログラム
11:00 情報提供 株式会社スポートピア代表取締役社長 安田光則氏
11:30 ミニ講座「栗山の大地と農業の成り立ち」 NPO法人雨煙別学校理事 高橋慎氏
(昼食)
13:00 稲わらの福亀づくり 佐藤秀子氏、貞廣ヤエ子氏
14:00 「私のおもてなし」 西岡照世氏
14:15 「語ろう 子どもたちの心に響く”地元体験”」
15:00 終了
2.講演録
(株)スポートピア 代表取締役社長 安田光則 氏
そらちDEい~ねは発足して丸13年になります。これまで約5万人以上の修学旅行生や道内の中学生を農業体験で受け入れてきました。
最初の3、4年は日帰りが多く、色々な人が関わってやっていたのですが、修学旅行のニーズがファームステイに変わってくると、受け入れる農家さんがだんだん限定されてきて、それが今も続いていて苦労しているところです。延べ110軒の農家さんが年間4~5千人の子どもたちを受け入れているのが現状です。
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学校の先生が下見に来たときに、この農業・農家生活体験に何を期待していますかと聞きます。すると、だいたいこういうことをおっしゃいます。(1)生徒の心豊かな成長のため、(2)農業への興味関心を持ってもらいたい、(3)北海道農業を体感させたい、(4)農業の本質や楽しみとは何かということを子どもたちに体験させてあげたい、(5)自然・食・人に触れて初めての見聞きや体験ができる。主にこの5つに期待をしています。
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訪れた生徒たちの感想を見てみると、栗山町の富澤さんのところでは、「『仕事を手伝ってくれてありがとう』と言われた時にやりがいを感じ、達成感が出た」「とても気軽に作業ができた」「人生で大切なことを教えてくれた」とあります。
西岡さんのところでは「西岡さんが明るくて、不安に思って来たのが安心に変わりました」。野原さんもそうです。「不安だったが、笑顔で話しかけてくれて、とても安心して話すことができました」。それと食べ物のことは必ずでてきますね。
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誰のための農業体験か、ということを考えたときに「生きる力をつけるため」ということがよく言われています。これは文科省の言う生きる力です。農業体験をどんどん推し進めていったのは、どちらかというと文科省のほうでした。
一方、農政側は、どうも文科省の後に続いているような感じがしていました。農業体験というものを農業の仕事、本業としては位置づけていないというのがずっと続いていて、今もそうだと思います。農業は大変だ、食べ物は苦労してこうやって作っているんだよ、と教える。そして農業や食べ物の価値を教えるということが農業体験だということで、ずっと今までやってきているのかな、と思うんです。
でも、実際どうですか。そうではないと私は思うんです。農業の理解のために学生の宿泊研修を受け入れるというのは表面的な意義かなと思います。
農業体験の教育というのは、昔の農作業の手伝いとは違っている。修学旅行生を受け入れて、人間の力と自然が出会う場面を体験させる。決して単なる作業体験ではない。自然に働きかける農業に、生きる力をつけさせるものが濃厚に残っている。生きる力とはお金儲けのことではないはずです。
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小・中・高・大学では農業を産業の一つとして教えていると思います。お金儲けのために、近代化をして大量に作物を作ってそれをお金に換えて農家の所得が上がるようにずっと進めてきたんですよね。
北海道の農業、開拓をして百年以上たっていて、開拓をしていった人たちが作り上げた田んぼを今、近代化で大きな田んぼにして、田んぼに素足で入ることもほとんどなくなって、農家さん自身が田んぼに入ることを危ないというふうに思っている。田んぼに石が入っていることが、ちょっと寂しい感じがしますよね。
お金よりも大切なものがあるということを、農家の方、特に受入をしている方は分かっていると思います。儲けにならなくても、こんなに素敵な農業があるんだよ、ということを子どもたちにささやきかける時間と場所が農家さんにはあると思います。辛く大変な仕事のほかに、豊かな感触に農家さんは多分、触れている。職場体験とはまた違う、もっと重要な教育が農業体験の中にあると思います。
人間と自然の関係の本質を子どもたちに学んでもらいたい。農業の仕事は苦役ではない。効率の追求だけが目的でもない。自然との闘いなので、自分たちの思い通りにならないのが農業です。生産とは、儲けだけを追求するものではなくて、近代化によって何を得て、何を失ったのかということも考えてほしい。自然を感じることが今の子どもたちにとって大切なことだと思います。
これから先も所得や効率を求めて農業をやっていくとしたら、この農業体験や環境教育はもっともっと必要となると思います。
最後に、我々がホクレン夢大賞をいただいたときに、各地域の会長が出したコメントを紹介します。
― 受入を重ねる中で、子どもたちとの交流を楽しみ、元気をもらうようになっています。自分たちにとってごく当たり前の生活や風景が子どもたちに感動を与えています。農業の素晴らしさやおもしろさを伝えることが農家の自信につながっています。
― 生まれる農産物や育てる農業者は、大地が育む命の声を代弁していると思います。その大地から聞こえる声は生きる喜びに満ちています。畑の上での交流は生産・消費という垣根を無くします。交流によって耕された畑から、市民共通の夢と希望のある農業・農村の姿が浮かび上がるのではないでしょうか。
― 周りの自然もその中で暮らす私たち農業者の『心豊かな』生活も農業であると思う。そう考えると、農業の夢と希望は限りなく広がっていく。
― 農業者自身が、「農業とは農産物を生産するだけ」という考えを変えることと、農業をやりたい人は誰でも農業ができるような法の整備をして、新しい考えを農業に注入することが必要だと思います。
こんなふうに、当時の各地区の会長がコメントを出しました。農業体験に求めるものだとか、農業体験の凄さが全部入っているような気がします。農作業の体験、農業の生活体験から子どもたちに何を伝えるかというのは、皆さん意識しないでやっているんだけども、意識しないでやっていることの中に、求めるものが入っているように思います。
13年前の子どもたちと今の子どもたちはだいぶ様子も変わってきてはいますが、やっている皆さんはやり方を変えないでほしいなと思います。いつの時代も自然からどういう恵みをもらっているのかということを子どもたちに、素のままに伝えたら良いと思います。
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自然を生産しているのかな、というふうに思うんですね。茶碗いっぱいで赤とんぼが1匹。ミジンコが10万匹、蛙が3匹。それと涼しい風が30秒。それが田んぼなんですよね。この自然を守るために、皆さん農業をやっているし、「お金になるから」だけではないというふうに思うんですよね。
だから、この農業体験だとか農業生活体験は農業の一部として考えてほしい。これが外せない部分だと思います。体験を受け入れることが農業の一つなんだというふうにこれからもやっていただけたらな、というふうに思っています。
3.資料
あなたも福亀をつくりませんか? (つくりかた資料はこちら)
4.アンケート結果(詳細はこちら)
主な意見
・受入側としての心構えや認識を確かめ合える機会だと思います。
・栗山にいながら知らなかったことを知ることができて良かった。笑い話をしながら福亀をつくり、
いつも会っている人の違った面が見られて良かったです。
・今の農村現状の話し合いもしてみたい。農家戸数の減少に伴う農村のあり方を話し合い、
問題点を取り上げなければとも思います。