最終更新日:2020年4月08日(水)
平成15年3月策定(平成21年2月改正)
北海道環境生活部環境局自然環境課
アライグマは北米原産の動物であるが、テレビアニメーション番組の放映もあり、ペットとして日本に輸入され、昭和60(1985)年頃に販売のピークを迎えた。
その後これらのアライグマが逃げ出したり捨てられたりしたことが野生化の原因になっている。
北海道におけるアライグマの最初の野生化は、昭和54(1979)年に恵庭市内において飼育されていた10頭程度のアライグマが逃亡し、酪農地帯に定着したのが始まりと言われている。
その後も道央部を中心に逃亡等が続き、野生化したアライグマが生息域を拡大していったと考えられる。
道内では平成5(1993)年度に初めて農業被害が報告され、平成10(1998)年度には3,000万円程度の被害額になっている。
道では、平成11(1999)年度から緊急対策としてアライグマの捕獲等に取り組むとともに、アライグマ対策検討委員会を設置し、排除に向けて、対策方針や具体的手法等について検討を重ねてきた。
一方、国では、第6回生物多様性条約締約国会議で採択された外来種に対する指針原則を踏まえ、平成14(2002)年に「移入種(外来種)への対応方針」(以下、「外来種対応方針」という。)を策定し、「外来種の管理を検討する場合、その影響と程度に応じて、明確な管理目標を設定した管理計画を策定する必要がある」とした。
また、平成17(2005)年には、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(以下、「外来生物法」という。)を施行し、アライグマなど特に侵略的な外来種を「特定外来生物」に指定し、それら特定外来生物の飼養等規制や防除を行うこととした。
さらに、外来生物法に基づく「特定外来生物被害防止基本方針」(以下、「特定外来生物基本方針」という。)の中で、「既に定着し被害を及ぼしている特定外来生物については、被害の程度と必要性に応じて生態系からの完全排除、封じ込め等の防除を計画的かつ順応的に実施する。」、「地域の生態系に生ずる被害を防止する観点から地域の事情に精通している地方公共団体や民間団体等が行う防除も重要であり、これらの者により防除の公示内容に沿って防除が積極的に進められることが期待される。」などとして、特定外来生物に係る取り組みの方向性を示した。
このような状況をふまえ、北海道内におけるアライグマによる生態系への被害を防止するため、その対策の基本方針を策定するものである。
国内又は国外の他地域から、野生生物の本来の移動能力を超えて、意図的・非意図的にかかわらず、人為によって導入された種である外来種が、地域固有の生物相や生態系に対する大きな脅威となっている。
北海道においても外来種であるアライグマが野生化し、道央部を中心に繁殖し、急速に分布を全道に拡大しており、農業等被害の増大や、生態系への影響も報告されており、現状を放置すれば、膨大な農業等被害を引き起こし、人間生活に影響を及ぼすアライグマ回虫等の伝播、さらに在来種の捕食・駆逐といった生態系の攪乱等、生物多様性への影響が懸念されることから、次の3点を基本的な目的として、対策を実施することとする。
アライグマ対策の目的 ・生物多様性の保全 ・健康被害の防止 ・アライグマによる農業等被害の防止 |
アライグマが生息している限り、上記の目的を完全に達成することは困難である。
また、「生物多様性条約」には、「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」が、基本的な方向として示されている。
これらのことから、北海道におけるアライグマ対策の最終的な目標は、次のとおりとする。
アライグマ対策の最終目標 「野外からの排除」 |
生息情報の推移 生息情報または目撃情報のある市町村数は、平成4(1992)年度に13市町村であったが、平成20(2008)年7月には128市町村に拡大した。(市町村数は平成18年4月1日現在の全180市町村を基礎とする。) |
生態系への影響
・野幌森林公園では、アオサギのコロニーが消滅した原因としてアライグマの影響が疑われているほか、絶滅の危機に直面しているニホンザリガニの捕食、タヌキの生息数の減少が確認されており、直接的な在来種の捕食のほか、生息環境が類似する在来種の駆逐が懸念される。
・道東では、天然記念物であり絶滅の危機に直面しているシマフクロウの営巣木付近においてアライグマの足跡が確認されており、繁殖等への影響が懸念されている。
・世界自然遺産に登録された知床や、天然記念物でありラムサール条約湿地である釧路湿原の周辺などにおいても、アライグマの生息が確認されており、貴重な生態系への影響が懸念されている。
動物由来感染症の伝播のおそれ
・道内で捕獲されたアライグマから、肝障害を引き起こす可能性のあるレプトスピラ、皮膚病である疥癬などが確認されており、人に感染するおそれがある。
・道内で捕獲された個体からは検出されていないが、狂犬病やアライグマ回虫など、人間に感染すれば死に至ることもある感染症や寄生虫を媒介する可能性がある。
農業等の被害
・平成5(1993)年度に、初めて農林水産業被害(以下、「農業等被害」)が報告され、10(1998)年度以降、農業等被害額は毎年3,000万円台で推移している。
市町村からの生息情報及び捕獲状況並びに被害報告等から、アライグマ対策について、現状では以下の課題がある。
生息情報の拡大
・捕獲作業を継続している地域においては、農業等被害額や捕獲数の減少が見られる市町村がある一方、生息情報がある市町村は全道に拡大している。
・このため、地域における監視の強化を図るとともに早期に効果的な防除を進める必要がある。
目標を達成するための方法として、大きく分けて次の3点が挙げられる。
外来種対策に係る普及啓発 ・アライグマを含め外来種対策全般に係る道民の理解の増進 |
野生化の防止 ・「放逐(遺棄)・逃亡」による新たな個体の野生化の防止 |
野生個体の根絶 ・「新たな地域への拡大防止・封じ込め・定着地域での根絶」 |
(1) 外来種対策に係る普及啓発
・道内では、アライグマのほかブラックバス等の外来種の野外への放逐等が問題になっており、「外来種対応方針」、並びに「外来生物法」及び「特定外来生物基本方針」などの普及啓発を図る。
・ 外来種への対応について、研修会を開催する等して普及啓発を行う。
(2) 野生化の防止
・「外来生物法」に基づく飼養等の規制などに関する普及啓発に努める。
(3) 防除
外来生物法に基づくアライグマ防除実施計画の作成
・北海道では平成18年4月に、外来生物法に基づく「北海道アライグマ防除実施計画」を策定し、市町村にも計画の策定を呼びかけている。
(4) アライグマ排除のための協力体制の構築
協力体制の構築
・道民、被害農家、狩猟者、市町村及び農協等の団体(以下、「市町村及び農協等の団体」を「市町村等」という。)並びに道や国及び研究機関が連携・協力して「野外からの排除」にあたる体制を構築する。
(5) モニタリング体制の構築
モニタリング体制
・生息や被害の状況の把握については、アライグマ対策に関する普及啓発を実施し、地域住民を含む監視体制を構築し、被害農家、地域住民、狩猟者等から生息情報を収集する。
・市町村等が実施する防除に関する情報を収集し、それらの情報を集中管理し、迅速にフィードバックする。
(6) 調査研究の推進
効果的な捕獲方法の開発
・「野外からの排除」に向けて、生息域の拡散を阻止する方策や低密度においても効率的に捕獲可能な方法の開発が不可欠であることから、新たな捕獲技術等について調査研究を進める。
生息密度の新たな把握方法の開発
・新たな地域への侵入等の確認のために、新たな確認方法を開発する。
(7) 役割分担
【道民の役割】 ・メディアや行政機関から情報を収集し、外来種に対する危機意識を高めるとともに、アライグマを発見した場合には、市町村等を通じて情報を提供する。 |
【飼養者の役割】 ・外来生物法に基づく飼養等許可を受け、適正に飼養し、終生飼養する。 |
【被害農家の役割】 ・アライグマの餌場とならないよう畜舎や納屋等における管理を徹底する。 ・アライグマの生息情報や被害が発生した場合の被害状況について市町村等へ情報提供するとともに、農業等被害防止の観点から市町村等が実施する防除に参加するとともに、国等の支援が得られる場合には、身近な地域における防除を行う。 |
【狩猟者の役割】 ・アライグマの生息情報の提供、捕獲、被害農家への捕獲技術の普及など、アライグマ対策全般にわたって協力する。 |
【市町村等の役割】 ・地域における事業実施主体として、農業被害や捕獲実績の取りまとめ、住民への普及啓発、被害農家等への捕獲技術の指導などを行う。 ・地域の生態系等に生ずる被害を防止する観点から、国が策定する防除の公示内容に沿って、農業等被害や住宅被害など身近な被害を防止するとともに地域の生態系を保全するための防除を行う。 |
【道の役割】 ・北海道の「野外からの排除」を目指して、情報収集や管理、迅速なフィードバック等を通じて、市町村等、捕獲者、道民に対して的確な情報提供を行う。 さらに、外来種への対応について、研修会を開催する等して普及啓発を行う。 ・本道の生態系等に生ずる被害を防止する観点から、国が策定する防除の公示内容に沿って、拡散の核となり他地域への生息域拡散が懸念される地域における特別対策として、生息域拡散を防止するとともに貴重な生態系を保全するための防除を行う。 |
【国の役割】 ・外来生物法に基づく飼養等規制や飼養等許可を行うなど、新たな野生化を防止する。 ・科学的知見の充実や国民の理解の増進に努める。 ・アライグマの防除の目標や内容等に係る防除の公示を行う。 ・地方公共団体等による防除について、防除の確認又は認定を行う。 ・全国的な観点から貴重な生態系等を有する地域において防除を実施する。 |
【研究機関の役割】 ・効果的な防除を促進するため、アライグマ対策の理論構築、捕獲個体の分析、生息域の拡散を阻止する方策や低密度での捕獲技術、生息確認方法の開発、さらに情報の蓄積や管理等について協力する。 |
(8) 北海道アライグマ対策基本方針の見直し
基本方針は、現状の変化に応じ5カ年を目途に見直し作業の検討を行うこととするが、アライグマの生息状況が大きく変化した場合には、随時、基本方針を見直すものとする。
【関係者と役割分担】 |
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各主体 役割 |
道民 地域住民 |
飼養者 | 被害農家 | 狩猟者 | 市町村・農協 (市町村等) |
道 | 国 | 研究機関 |
普及 啓発先 |
被害農家 | 地域住民 被害農家 |
道民 市町村等 |
国民 自治体等 |
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啓発 内容 |
捕獲技術 | 外来種対策 | 外来種対策 生息情報等 |
外来種対策 防除の公示 |
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野生化の防止 | 生息情報の通報 | 適正飼養 終生飼養生 | 畜舎等の管理 | 生息情報の通報 | 生息情報の収集 | 目撃情報の集中管理 | 外来生物法に基づく飼養等管理 | 拡散防止方策等の開発 |
防除 |
国等の支援による身近な地域における防除 |
捕獲技術の提供 | 身近な地域における防除 | 全道的観点から必要な防除 | 全国的観点から必要な防除 | |||
モニタリング | 生息情報の通報 | 生息、捕獲、被害情報等の通報 | 生息、捕獲、の通報 | 生息、捕獲、被害情報等の道への報告 | 生息、捕獲、被害情報等の集中管理、フィードバック | |||
調査研究の推進 | 調査への協力 | 調査への協力 | 調査への協力 | 調査への協力 | 全国的観点から科学的知見の充実 | 個体の分析、新たな捕獲技術等の開発 |
アライグマによる本道の生態系への被害を防止するため、アライグマの「野外からの排除」を目指して、道民、飼養者、被害農家、狩猟者、市町村及び農協等、並びに道、国及び研究機関などが、互いに連携・協力しあい、外来生物法に基づくアライグマ防除実施計画の推進を図り適切な防除を積極的に進めることとする。
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