(仮称)新苫前風力発電事業環境影響評価方法書に係る知事意見

○環境影響評価方法書に係る知事意見 (平成28年1月21日) 

1 総括的事項
(1)  本方法書記載の事業計画については、前段の手続きとして提出された「(仮称)新苫前風力発電事業計画段階環境配慮書」に対する知事意見において、環境配慮事項の実質的な検討を十分に行っておらず、その結果、本事業計画によって重大な環境影響が生じないと判断するに足る内容を備えていないことから、事業を現実に想定する位置等の事業諸元が一定程度定まった時点で、法の趣旨及び目的に沿って環境配慮の視点から十分検討を行い、改めて配慮書を作成すべきとしたところである。
 
しかし、事業者は配慮書を再作成し、改めて手続きを経ることはせず、方法書手続きを開始したことにより、環境影響評価法に配慮書の手続きが設けられた本来の意義が損なわれる結果となった。

 
(2)  本事業は、現在既に供用している「ユーラス苫前ウインドファーム」(総発電出力20,000kW、定格出力1,000kWの風力発電設備20基)について、既設の風力発電設備(以下「既存設備」という。)を定格出力2,000~3,400kWの風力発電設備10基程度に「更新」する計画であり、既存設備よりも風力発電設備の基数は減少するが、単機あたりの大きさは大型化するとともに、総発電出力数は増加する可能性がある。
 
このような事業の特性から、対象事業実施区域の近傍では多くの住居等が存在し、対象事業実施区域及びその周辺ではノスリの渡りの経路やオジロワシの営巣が確認され、さらに、既存設備ではこれまでにバードストライクが多発していることを踏まえると、事業の規模、風力発電設備の配置及び機種等によっては、地域住民の生活環境や鳥類の生息・生育環境に重大な影響を及ぼすことが懸念される。
 このため、今後の事業計画の検討に当たっては、まず風力発電設備の配置を住居等から十分に距離を確保するよう設定し、その上で2の個別的事項の内容を踏まえ、適切に調査、予測及び評価を行うこと。また、その結果に基づき、事業の実施による重大な環境影響を可能な限り回避又は低減を図るよう環境保全措置を検討し、その検討の経過を具体的に準備書に記載すること。

 
(3)  本方法書では、対象事業実施区域のうち、既存設備が配置されている区域を「北側エリア」、新たに風力発電設備の配置を検討する区域を「南側エリア」として区分した上で、今後の土地利用の許認可協議等の結果によって、対象事業実施区域が「北側エリア」のみとなった場合には、「風力発電所のリプレースにおける環境影響評価手法の合理化に関する検討報告書」(平成27年1月、環境省)に基づいて、予測手法を簡略化する可能性が示されているが、対象事業実施区域が「北側エリア」のみとするか否かを決定する時期が明確にされず、また、簡略化した場合の予測手法を具体的に記載されていない。
  このため、準備書においては、新たに配置する風力発電設備等の位置を具体的に示すとともに、対象事業実施区域が「北側エリア」のみとするか否かを明確にすること。また、簡略化を検討する場合は地域や事業の特性に十分留意するとともに、簡略化する場合は、その予測手法についてあらかじめ行政機関や地域特性を十分に把握している専門家等、外部の意見を聴取するなど、方法書手続において本来得られるべきだった意見を補い、適切な調査、予測及び評価を行うこと。

 
(4)  本方法書は、環境影響評価項目全般にわたって、調査、予測及び評価の手法に係る具体的な記述がないものや誤記、図表の不備があるなど、一般にも分かりにくく、広く意見を求めるための十分な図書となっていないため、意見聴取の過程において、十分な情報や意見が得られなかった可能性がある。
 このため、準備書の作成に当たっては、各環境影響評価項目について実施した調査の詳細な内容、予測及び評価の手法等に係る考え方、根拠及びその結果等の必要な情報を遺漏なく具体的に、かつ一般にも分かりやすく記載するとともに、専門的な表現については解説を付し、図表については見やすいものとすること。なお、インターネットによる準備書の公表に当たっては、広く環境の保全の見地からの意見を求められるよう、印刷可能な状態にすることや、法に基づく縦覧期間終了後も継続して公表しておくなど、利便性の向上及び住民等との相互理解の促進にも努めること。

 

2 個別的事項

(1)騒音及び超低周波音
 対象事業実施区域及びその周辺は静穏な地域であることを踏まえ、施設の稼働による騒音及び超低周波音に関しては残留音を適切に把握するとともに、周波数200ヘルツ以下の帯域について、3分の1オクターブバンド中心周波数の音圧レベルで調査、予測及び評価を行うこと。
 騒音及び超低周波音による心身への影響については不確実性があることから、稼働開始後に影響が確認された場合の対策についても検討すること。

 

(2)水環境
 工事の実施により発生するおそれのある水の濁りに係る環境保全措置について、近年増加している局所集中的な降雨の傾向を十分に踏まえたものにするとともに、沈砂池等の施設の構造や処理能力等から理論計算等が可能なものは、定量的に調査、予測及び評価を行うこと。

 

(3)風車の影
 対象事業実施区域の周辺には住宅等が多く存在することを踏まえ、施設の稼働による風車の影(シャドーフリッカー)については等時間日影図を作成した上で、十分に影響が回避、低減されているかの観点から評価すること。

 

(4)動物
 動物相の調査については、土地改変や樹木の伐採を予定する場所を網羅するよう調査ルートを設定するとともに、谷状の地形についても調査ルートに含めること。特に水流が認められるなど湿潤な場所については、小型の動物が好んで利用し、両生類の繁殖の場ともなることから、可能な限り上流域まで調査すること。
 ほ乳類及び昆虫類の捕獲調査については、土地改変や樹木の伐採等による影響を適切に予測するため、風力発電設備や道路の設置場所等の土地改変予定箇所など、地形や植生その他の生息基盤となる環境の特性に応じて適切な場所を選定して行うこと。また、コウモリ類の調査について、より正確な状況把握を行うため、四季を通じて調査を行うとともに、バットディテクターによる調査は、専門家等の助言を得ながら適切な調査時期、調査地点及び日数を設定して行うこと。
 対象事業実施区域のある苫前町は、風力発電設備によるバードストライクが多発している地域であることから、地域特性を十分に把握した専門家等から助言を得ながら、苫前町及びその周辺地域における風力発電設備での飛翔行動分析及び衝突事故の発生事例を分析するなど、可能な限り地域に即した最新の知見を収集するとともに、適切な調査時期及び調査地点を選定し、調査、予測及び評価を行うこと。なお、既存設備ではオジロワシの衝突が特に多く確認されていることから、オジロワシの生態を熟知した専門家にも助言を得ること。
 既存設備のバードストライクのモニタリング結果等を用い、適切な方法で衝突確率を算出するとともに、新たに設置する風力発電設備についての衝突確率を予測し、鳥類における影響の回避、低減について評価すること。
オ 希少猛きん類の調査は、年間を通じて実施し、当該調査を通じて営巣が確認された場合には、当該営巣について調査期間を、2営巣期を含む1.5年以上に設定するとともに、特に営巣期における行動圏解析等を綿密に行うこと。
 鳥類等の衝突の予測には大きな不確実性を伴うことから、専門家等の助言を得ながら適切な頻度、期間及び方法によって事後調査を実施すること。

 

(5)植物
ア 植物相の調査については、土地改変や樹木の伐採を予定する場所を網羅するよう調査ルートを設定して行うこと。
 工事の実施による土地改変や樹木の伐採については、その範囲を必要最小限とするとともに、自然度の高い植生の区域及び大型鳥類などが営巣に利用し得る大径木の生育域を可能な限り回避すること。
ウ 工事の実施による土地改変に伴う表土の移動や改変箇所の裸地化等により侵略的な外来種の生育域が拡大し、周辺の植生等に影響を及ぼすおそれがあることから、土地改変を予定する区域及びその周辺における侵略的な外来種の生育状況をあらかじめ把握し、工事の実施によりその分布が拡大することのないよう施工方法を検討すること。

 

(6)生態系
 生態系の調査、予測及び評価に当たっては、集水域などの地形単位や植生、土地利用等のまとまりを考慮して調査範囲を設定し、基盤環境と生物群集との関係を把握するとともに、事業の実施による環境変化が注目種・群集へ及ぼす影響を、客観的かつ具体的に予測及び評価を行うこと。
 注目種・群集の選定に当たっては、風力発電の事業特性による環境の変化により生息・生育及び繁殖等への影響を受けやすい種・群集であって、対象事業実施区域及びその周辺地域の種の多様性を維持する上で重要と考えられる地形、植生等に依存しているものを選定すること。
 注目種・群集の分布及び生息・生育環境、好適性区分面積、現存量等の変化の推定に当たっては、現況を十分に再現できるとともに、注釈や図解等により分かりやすく表現できる科学的手法を用いること。

 

(7)景観
 それぞれ四季を通じて風力発電設備が視認しやすい天候時のフォトモンタージュ等を作成するとともに、本事業の実施前後での視認状況を比較して、客観的かつ科学的な予測及び評価を行うこと。
 フォトモンタージュ等は、人間の視野特性に近い水平画角60度程度で作成し、主要な眺望点からの眺望景観及び身近な景観への影響について、予測及び評価を行うこと。

 

(8)廃棄物等
 工事の実施に伴い発生する廃棄物及び残土は、排出方法及び処理方法等を明らかにした上で、排出量について適切に調査、予測及び評価を行うこと。

 

(9)累積的影響
 
対象事業実施区域及びその周辺では、他事業者による風力発電設備が存在するほか、新たに風力発電事業が計画されていることから、これらの累積的影響について、他事業者と協働するなどして適切に調査し、専門家等の意見を踏まえ、影響が最大となると想定される条件において、予測及び評価を行うこと。
 
また、本事業の「更新」期間中において、新たに設置する風力発電設備と既存設備が同時期に存在または稼働する可能性がある場合には、工事工程を明らかにした上で、これらの累積的影響についても、専門家等の意見を踏まえ、適切に調査、予測及び評価を行うこと。

 

 

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