北の生活文化(アイヌの口承文芸 )

 

 

北の生活文化(アイヌの口承文芸 )


 

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 北海道の口承文芸には、アイヌ民族のものと和人のものが存在する。アイヌの口承文芸は、長大で雄大な物語がメロディーに乗せて語られるものが多いのが特徴だ。これに対し、和人の口承文芸は、移住の歴史の浅さと不安定な生活から、あまり残っていないのが現状である。
 
アイヌの口承文芸
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88. 英雄叙事詩の口演の様子 89. 神謡から「キツネの神の男」
 アイヌの人々は、伝統的な文化の中でさまざまなジャンルの口承文芸を口演(口頭で演じること)してきた。和人の口承文芸に比べると、アイヌの口承文芸には長いものが多く、主人公が自然界の神々や半神半人の英雄であることも多い。また、たいていは語り手が主人公に視点を置いてその見聞を語る形式をとる。

 アイヌの物語は、口演の形態から「神謡」(アイヌ語では、カムイユカラ、オイナなどと呼ばれる)、「英雄叙事詩」(ユカ、サコペ、ハウキなど)、「散文説話」(ウウエペケ、トゥイタなど)のジャンルに分けることができる。

 神謡と英雄叙事詩は、短く繰り返されるメロディーに乗せて、リズミカルに整えられた韻文で語られる。神謡の特徴は、それぞれの物語に固有の繰り返しの言葉を、物語の中に何度も挿入しながら演じられることである。英雄叙事詩を演じるときには、語り手や聞き手が30cmくらいの木の棒でいろりのふちをたたきながら拍子をとり、物語の展開に応じて掛け声を掛けて語りに勢いをつける。

 これらに対して、散文説話にはメロディーがつかず、より日常会話に近く、リズミカルに整えられていない口調で語られる。
 
アイヌの神謡、英雄叙事詩、散文説話
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90. 英雄叙事詩から
  「トゥンプオルンクルを背負う姉」
91. 神々へ祈りをささげる
 神謡の語りはたいてい数分から十数分だが、長いものには一時間以上かかるものもある。内容はさまざまだが、動物や雷など自然現象の神々が、神々の世界で起こった出来事や、人間の世界へ出かけて行って体験した自分の身の上を物語る、というのが一般的である。

 英雄叙事詩の口演にかかる時間は、短いもので数十分、長いものでは数時間にわたる。物語の内容はやはりさまざまだが、時には空を飛んだり、切られても生き返ることができたりする超人的な英雄が、親の敵(かたき)を討つためや、連れ去られたいいなずけを取り返すために敵と戦った自分の身の上を物語る、というのが一般的である。

 散文説話の口演にかかる時間は十分前後から数時間である。内容は、神謡や英雄叙事詩以上にバラエティーに富んでいる。例えば、人間の村と村との戦いでみなしごになった女の子が、拾われて育てられ、成長してから敵討ちを遂げるまでの身の上を物語るものがある。人間の世界にやってきた神様を妻とした男が、秘密をのぞいたために妻に去られてしまった自分の身の上を物語るという、神謡とちょうど視点を逆にしたような話もある。
 
和人の口承文芸
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92. 江差の繁次郎から「九里の橋」 93. 和人の伝説から「門昌庵」
 和人の口承文芸には、この土地で生まれた独自の昔話はほとんどなく、本州から伝承した昔話も非常に少ない。これは、アメリカにおける白人の昔話や英国におけるイギリス人の昔話の状況とよく似ている。アメリカでは昔話といえば先住民族インディアンの昔話であり、白人の昔話はほとんど見当たらない。英国でも昔話はスコットランドやアイルランドなどケルト人の昔話は豊かであるが、イギリス人の昔話は乏しい。移住した時には故郷の昔話を持って来たはずなのに、開拓の明け暮れの中で失われてしまったのだ。

 北海道における和人の生活環境も、昔話が誕生するのに必要なのんびりした環境とはほど遠かった。和人の渡来は平安末期に道南地方に来たのが初めてで、以後17世紀に松前藩が成立、18~19世紀に江戸幕府の直轄地、明治には箱館戦争の勃発と続く。その間、先住民族であるアイヌとの抗争と、慣れない土地での生活で和人には昔話を生み出すような精神的余裕はなかった。さらに明治になって活版印刷機が登場し、印刷物が普及すると、口頭で語られる昔話の発展は望むべくもなかった。

 一方、現実生活と密接にかかわる和人伝説は、昔話に比べると比較的多く残っている。しかし、それらは本州のものと比較したとき、実生活に密着した重い内容であることが多い。
 
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