[旧] 北海道旧土人保護法について

日本国民への同化が目的

 明治時代になると、政府の植民策がすすみ北海道への移住者が増加してきました。開拓使や北海道庁は、先住していたアイヌの人たちに一部の地域で農業の奨励や教育・医療などの施策をおこなってきましたが、十分ではなく、次第に生活に困窮する人たちが増えてきました。
 このため、政府は明治32年に「北海道旧土人保護法」を制定しました。これは、アイヌの人たちを日本国民に同化させることを目的に、土地を付与して農業を奨励することをはじめ、医療、生活扶助、教育などの保護対策をおこなうものでした。
 しかし、和人の移住者に大量の土地を配分したあとで、新たに付与する良好な土地は少なく、付与された土地もその多くは、開墾できずに没収されたり、戦後の農地改革では他人に貸していた土地が強制買収されたりしました。
 また、その他の対策も必ずしも成果は上げられませんでした。

戦後も生き続けた旧土人保護法

 法律は下記のように、漢字にカタカナの混じった文ですが、戦後も法律として効力をもち続けました。
 このうち、実際に機能していたのは、付与された土地を他人に譲渡する際に知事の許可を必要としたことと、共有財産を知事が管理することの規定のみでした。(共有財産とは、明治時代の漁場経営の収益金や宮内省からの教育資金としての御下賜金などの残りを積み立てていたものです。)
 また、昭和9年に制定され、旭川市における土地の処分について定めた「旭川市旧土人保護地処分法」も、土地の譲渡について旧土人保護法の規定を準用することを定めたことだけが機能していました。
 この二つの法律は、平成9年7月新法の施行に伴い廃止されました。

[旧]北海道旧土人保護法

(明治32年3月2日法律第27号)
[この法律は平成9年7月1日、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の施行に伴い廃止されました。]

[土地の無償交付]

第一条 北海道旧土人ニシテ農業ニ従事スル者又ハ従事セムト欲スル者ニハー戸ニ付土地一万五千坪以内ヲ限リ無償下付スルコトヲ得

[所有権の制限]

第二条 前条二依リ下付シタル土地ノ所有権ハ左ノ制限ニ従フへキモノトス
一 相続ニ因ルノ外譲渡スルコトヲ得ス
ニ 質権抵当権地上権又ハ永小作権ヲ設定スルコトヲ得ス
三 北海道庁長官(北海道知事)ノ許可ヲ得ルニ非サレハ地役権ヲ設定スルコトヲ得ス
四 留置権先取得権ノ目的トナルコトナシ
2 第三条[没収]ノ規定二依ル没収ヲ受クルコトナキニ至リタル土地二付テハ前項ノ規定ハ之ヲ適用セズ此ノ場合ニ於テ譲渡又ハ物権ノ設定行為ハ北海道庁長官(北海道知事)ノ許可ヲ得ルニ非ザレバ其ノ効カヲ生ゼズ但シ相続以外ノ原因二因ル所有権ノ移転アリタル後二於テハ此ノ限ニ在ラズ
第二条ノニ 削除

[没収]

第三条 第一条[土地の無償交付]二依リ下付シタル土地ニシテ其ノ下付ノ年ヨリ起算シ十五箇年ヲ経ルモ尚開墾セサル部分ハ之ヲ没収ス
第四条乃至第六条 削除

[保護施設]

第七条 北海道旧土人ノ保護ノ為必要アルトキハ之二関スル施設ヲ為シ又ハ施設ヲ為ス者ニ対シ補助ヲ為スコトヲ得

[費用の負担]

第八条 前条ニ要スル費用ハ北海道旧土人共有財産ノ収益ヲ以テ之ニ充ツ若シ不足アルトキハ国庫ヨリ之ヲ支出ス
第九条 削除

[共有財産の管理]

第十条 北海道庁長官(北海道知事)ハ北海道旧土人共有財産ヲ管理スルコトヲ得
2  北海道庁長官(北海道知事)ハ共有者ノ利益ノ為ニ共有財産ノ処分ヲ為シ又必要ト認ムルトキハ其ノ分割ヲ拒ムコトヲ得
3  北海道庁長官(北海道知事)ノ管理スル共有財産ハ北海道庁長官(北海道知事)之ヲ指定ス
第十一条 削除
附 則 (省略)

※この法律は、大五8年、昭和12年・21年・22年・43年に一部改正が行われました。この条文は最終改正後のもので、各条項の前の[ ]内は、見出しとして入れたものです。

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