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最終更新日:2013年12月16日(月)

アイヌ政策推進室

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 アイヌ文化の振興等を図るための施策に関する基本計画
平成11年3月
■ はじめに

  「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」、いわゆるアイヌ新法が平成9年5月8日に第140回国会において全会一致で可決成立し、同年7月に施行されてから1年余が経過し、この間、アイヌ文化の振興等について、様々な取組みが着実に進められております。
 この法律が成立するまでには、昭和63年8月の北海道、北海道議会及び北海道ウタリ協会によるアイヌの人たちに関する新たな法律制定の要請、平成8年4月に内閣官房長官の私的諮問機関としての「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」から今後のウタリ対策のあり方についての報告書の提出など、長い年月をかけた様々な取組みが行われてきました。
 法律制定の基礎となった有識者懇談会の報告書では、ウタリ対策の新たな展開の基本理念を「アイヌ語やアイヌ伝統文化の保存振興及びアイヌの人々に対する理解の促進を通じ、アイヌの人々の民族的な誇りが尊重される社会の実現と国民文化の一層の発展に資すること」であるとした上で、この基本理念に基づくウタリ対策の新たな展開については、「アイヌの人々の置かれている現状を踏まえ」、「少数者の尊厳を尊重し差別のない多様で豊かな文化をもつ活力ある社会を目指すものと考えるべきであろう」と提言しています。
 アイヌ新法は、これらの提言などを踏まえ、アイヌの人たちの誇りの源泉であるアイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する、国民に対する知識の普及及び啓発を図るための施策を推進することにより、アイヌの人たちの民族としての誇りが尊重される社会の実現を図ることなどを目的とするものです。
 この基本計画は、アイヌ新法に基づき、国が示した基本方針に即し、アイヌの人たちの意見や広く道民の意見を参考にしながら策定したものであり、今後の北海道におけるアイヌ文化振興の方向性などについて示したものです。道としては、この基本計画をもとに関連する施策を総合的に進めてまいります。
 また、アイヌの人たちの民族としての誇りが尊重される社会の実現のためには、アイヌの人たちの主体的な取組みはもとより、市町村や関係機関などをはじめとする地域社会全体での取組みを進めていくことも必要であると考えております。
 このため、この基本計画が広く理解を得て、様々な取組みが積極的に展開され、21世紀の北海道にふさわしいアイヌ文化の振興等が進められることを期待するとともに、道としてもその支援に努めてまいります。
 終わりに、この計画の策定にあたり、ご意見、ご協力をいただいた道民の皆様と関係者の皆様に深く感謝申し上げます。



1. 計画策定の目的

 アイヌの人たちの民族としてのアイデンティティ(帰属意識)は脈々と受け継がれているものの、その基盤ともいうべき言語、伝統文化等は、歴史的経過の中で失われたものも多く、今日十分な保存、伝承が図られているとは言い難い状況にあります。
この基本計画は、これらアイヌの人たちの誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化がおかれている状況に鑑み、アイヌ文化の振興とアイヌの伝統等に関する理解の促進を図ることにより、アイヌの人たちの民族としての誇りが尊重される社会を実現することを目的とします。



2. 計画の性格

 この計画は、中長期的な展望に立って、今後の北海道におけるアイヌ文化の振興とアイヌの伝統等に関する理解の促進のための基本的方向と必要な施策を示したものです。



3. アイヌ文化を取り巻く状況
 □ アイヌ文化の特色とその変遷
 アイヌ文化は、北海道を中心として、東北からサハリン・千島に至る広い範囲に広がって暮らしていた人たちが作り出した文化であり、アイヌ語をはじめとし、ユカラなどの口承文芸や、アイヌ文様に見られる芸術性など北方の自然の中での暮らしから生まれ、長い時間をかけて育まれたものです。
 アイヌ文化を、1 信仰(儀礼)、 2 生活文化(生業、交易、衣服、食生活、集落と住 居、歌や踊り、人生儀礼)、3 言語・文学(アイヌ語、口承文芸、文学、アイヌ語に由来 する地名)、4 技術・工芸の4つに大別すると、その特色と変遷の概要については次の とおりとなります。


 1 信仰(儀礼)
 アイヌの人たちは、自然界にあるものすべてに霊魂が宿ると信じ、人間にとってなくてはならない食糧となる植物や動物をはじめ、人間にとっては害となる疫病や自然災害までも、カムイ(神)が姿を変え人間の世界に現れたものとして考えていました。
 このことから、カムイノミ(神への祈り)は大事なこととして、山の猟に入る前、海や川での漁に取りかかる前、また結婚式や葬儀など人生の節々や、家を建てた際のチセノミ(新築祝)、地震や津波、洪水などの天災の時など生活の中の様々な場面で行われました。
 カムイノミは、イオマンテ(熊の霊送り)のように他のコタン(村・集落)からも人々が大勢集まるような大きなものから、各家庭で行なうイチャルパと呼ばれる祖先供養や、新しいサケを迎える儀式であるアシリチェプノミ、さらに個人的に行うものまでその規模も様々でした。
 しかしながら、江戸幕府の和人化政策による日本語の奨励、明治政府の同化政策による伝統的風俗・習慣の禁止などによりアイヌ語を語る人が少なくなるなどカムイと人との関係を伝えることが難しくなり、徐々に伝統的なカムイノミも行われることが少なくなりました。


 2 生活文化(生業、交易、衣服、食生活、集落と住居、歌や踊り、人生儀礼)
 
○ 生業
 アイヌの人たちは、狩猟・漁撈・採集を生活の基盤とし、また、これらがアイヌの人たちの社会生活や文化生活などあらゆる面での基盤となっていました。しかし、本州やサハリン方面との交易活動が盛んになると、狩猟、漁撈などは自給自足のためだけにとどまらず、商品生産としての活動へと転換していきました。
 その後、江戸時代における場所請負制での漁場における強制的な労働(使役)や和人化政策による農耕の奨励、さらに明治時代における開拓使の同化政策の一つとして狩猟、漁撈主体の生活から農耕主体の生活への転換を図る農耕の奨励により、アイヌの人たちの生活は大きく変化しました。



 
○ 交易
 アイヌの人たちと和人との交易が盛んになってくると、和人社会から日常生活に必要な物資が流入するようになりました。
 江戸時代の交易における生産物としては、ヒグマ・エゾシカ・テンなどの獣皮や熊胆、サケ・マス・コンブなどの水産加工品、アットゥシやゴザなどであったのに対し、和人からの商品は、ガラス玉、漆器、針、小刀、山刀、木綿、米、こうじ、たばこなどの宝物、祈りの際の道具、日常の道具や嗜好品などで、和人から入手するものが生活や儀式をとり行う上で不可欠なものになっていきました。
 しかしながら、アイヌの人たちの交易は、商場知行制によりそれぞれの商場のみに制限され、その後の場所請負制で和人による一方的な交換レートが定められるようになり、和人の経済的支配を受けるようになります。
 さらに、明治における開拓使の同化政策の一つとして農耕の奨励が推し進められました。
 このように、生業や交易のあり方が変化することは、アイヌの人たちの生活や文化に大きな影響を与えていきました。



 
○ 衣服
 アイヌの人たちの衣服には、素材や文様の付け方等によって様々な種類があり、地域ごとにも特徴があります。また、性別や年齢などによって着てよいとされる衣服の区別や、労働など日常の暮らしで着る日常着と儀式などの際に着る晴れ着との区別もありました。
 また、衣服の種類は素材によって大きく分類され、クマ、アザラシ、カモ、エトピリカなどの動物の皮を素材にしたものや、オヒョウ、シナノキ、イラクサなどの植物の繊維を素材にしたものなどがありました。
 その後、本州や大陸との交易が盛んになり、木綿の古着、古裂、反物などが入手しやすくなってからは、木綿衣が多く作られるようになり、刺しゅうを施しただけのものや布地に種々の色布を飾り付け刺しゅうを施したものなどがありました。
 なお、博物館や資料館などに所蔵・現存しているアイヌ文様の刺しゅうの施された衣装は、晴れ着として作られたものがほとんどです。



 
○ 食生活
 伝統的な狩猟、漁撈、採集による食生活も和人や大陸などとの交易により、米やこうじ、酒、たばこなどの飲食物や嗜好品が移入されるとともに江戸幕府の和人化政策や明治政府の同化政策による農耕の奨励や北海道の開拓、鳥獣捕獲や河川漁業の規制等により、狩猟、漁労主体の生活から農耕主体の生活への転換が図られ、狩猟や漁労などにより得ていた食糧が手に入りにくくなったことから、アイヌの人たちの食生活は大きく変わっていきました。
 現在では、普段の食生活で昔のままの食事をとることはなくなりましたが、伝統的料理は、儀式や祭事などにおいて作られるほか、昔からの素材を新しい方法で調理したり、季節の山菜などが食卓に並んだりすることもあります。



 
○ 集落と住居
 アイヌの人たちの住まいは、交通に便利であり、サケ・マスなどの水産物が豊富で飲料水が容易に得られる川筋や海浜に数戸から十数戸の小規模な集落(コタン)を形成して点在していました。
 その後の場所請負制のもとでの漁場における使役のために移住が始まり、さらに明治に入ってからも強制移住が行われ、伝統的なコタンは少なくなるとともに、住宅改良政策によりチセと呼ばれる伝統的な家は、次第に姿を消していきました。



 
○ 歌や踊り
 神々への感謝などの儀礼をはじめ準備作業などの祭りごとで踊られる踊りは、坐り歌や踊り歌(ウポポ、リムセなど)を基本に、多くは集団で踊られるもので、代表的な歌や踊りとしては、イオマンテのリムセや酒を搾ったり、濾したりする作業を表現したものなどがありました。
 また、即興的に歌を歌うヤイサマや遊びなどのための歌などがありましたが、同化政策による日本語学習の奨励などにより、アイヌ語を語る人が減少するにつれ、伝えられてきた歌や踊りも行われることも少なくなりました。



 
○ 人生儀礼
 アイヌの人たちの結婚式に当たる儀式は、物事を良く知っている男性により執り行われ、火の神を始め多くの神に二人の今後の生活の無事などをお願いするなどの質素なものでした。
 なお、まったく見知らぬ地域の人と結婚することはなかったため、文化の地域的特徴を強く残していくことができました。
 また、人が亡くなったときの葬儀に際しては、死後の世界に行くときの道案内となる墓標を始め、死後の世界に行ってから生活するために必要となる多くのものが副葬品として、死者とともに埋葬されましたが、こうした儀礼は、江戸幕府の和人化政策や明治政府による伝統的風俗・習慣の禁止により、次第に行われなくなりました。


 3 言語・文学(アイヌ語、口承文芸、文学、アイヌ語に由来する地名)
 
○ アイヌ語
 アイヌ語は、大まかに北海道、サハリン(樺太)、クリル(千島)列島、東北北部の4地域の方言に分かれると考えられています。そのうち、東北北部やクリル列島の方言はほとんど資料がないままわからなくなりました。
 北海道と樺太の方言との間では、発音や単語などがかなり異なっていますが、道内でも地域による単語や文法などに多少の違いがあるものの、本州における日本語の方言ほどの違いはありません。
 アイヌ民族固有の言葉であるアイヌ語は、同化政策による日本語学習の奨励や日本語による教育などにより、日常生活の中では使われなくなりました。
 また、アイヌ語は、標準語として広く使える共通語的な変化や時代に対応した変化が出来ていないため、アイヌ語を現在に生かすことを難しくしています。



 
○ 口承文芸
 アイヌ文化の特徴的なものの一つに口承文芸があります。
 これは、文字に書かれたものではなく、長い間口伝えで伝わってきたものです。
 口承文芸の中には、物語としての固まった形式を持つものから、歌い手の心情を表現する歌、踊りにあわせて歌われ歌詞の意味の明らかでない歌、さらには神への祈り言葉や改まった場での挨拶などまでを含めることができます。
 物語としての内容を持つものは大きく分けて、カムイユカラ 、オイナなどの神謡(神々の物語)、ユカラ、サコロペ、ハウキなどの英雄 叙事詩(英雄の物語)、ウエペケレ、トゥイタクなどの散文説話(人々の物語、散文の物語)に大別されています。
 こうした物語は、人が集まる儀式の後の楽しみの一つであり、また、日常生活の中での娯楽として、さらに子供たちへの教訓としても語られてきましたが、アイヌ語と同様に語ることのできる人も少なくなり、日常生活の中で語られることはほとんどなくなりました。



 
○ 文学
 大正時代から昭和初期にかけては、アイヌ自身がアイヌ民族の文化や教育について書いた最初の書物である武隈徳三郎の「アイヌ物語」や、民族の伝統的文化を後世に残したいという切実な思いが込められた「銀の滴降る降るまわりに」で始まる「ふくろうの神の自ら歌った謡」など13編のユカラが収められた知里幸恵の「アイヌ神謡集」、アイヌ民族の苦しみ、悩み、悲しみ、強い憤りを表現した違星北斗の歌集「コタン」、キリスト教伝道師となり、伝導活動のかたわら歌った短歌を収めたバチェラー・八重子の歌集「若き同族(ウタリ)に」など、民族の伝統文化の伝承を訴え、民族の自  覚を促す内容を持った優れた著書・歌集がアイヌ民族の中から生まれました。
   また、戦後に出版された知里幸恵の弟で言語学者の知里真志保の「分類アイヌ語辞典」は、今日のアイヌ語の継承や復興のための貴重な文献となっています。



 
○ アイヌ語に由来する地名
 本道の地名の多くは、その地形の特徴や土地の産物などを表したアイヌ語に由来しており、アイヌの人たちの過去の生活環境を伝える重要な資料であり、道民にとってアイヌ民族の言葉・歴史・文化を身近に伝えるものとして、関心を寄せる人も多くなってきています。
 アイヌ語に由来する地名は、そこに住む人たちの生活に必要な目印になりやすい地形の特徴や、有用な動植物などの捕獲・採取ができるなど、身近な生活を反映して付けられたものです。
  しかしながら、自然地形も社会的な生活環境の変化によって、かつて名付けられた地名の意味を正確に理解することが難しい場合もあります。


 4 技術・工芸
 アイヌの人たちは、日常生活に必要な多くの道具を自分の身近なところで入手できる 材料から巧みに作り出したり、交易により入手した材料を加工し独自のものを作り上げてきました。その中には、アイヌ文様が施され、芸術品としてもすばらしいものも見られます。
 樹木を利用するものとしては、日常の箸や盆などの食器や小刀の鞘や柄、イクパスイと呼ばれるカムイノミの際に酒を神にささげる篦状の道具などには様々な文様を彫り込みました。また、狩猟具などでは、その材料の強度や粘りなどの特徴を生かした巧みな製法や利用方法に、長年にわたって伝えられてきたアイヌの人たちの知恵がうかがわれます。
 さらに、縫い糸や狩猟具の結び紐、弓の弦、運搬用や貯蔵用の袋物などの道具を作ったり、ゴザや反物を織るため、樹皮や草皮から繊維を取 り出してきました。
 中でも、オヒョウ(ニレ科の落葉樹の一種)からはアットゥシ(樹皮衣)を、イラクサからはテタルペ (草皮衣)と呼ばれる衣服を作り出しました。
 その後、交易により木綿や絹が一定量入るようになると、その生地の上に白や黒などの色布を置いてアイヌ民族独特の文様を表現し、その上を色糸で刺しゅうする形態の衣服が登場するなど、現在に続くアイヌ衣服の基本的なパターンを独自なものとして作り上げてきました。


  □ アイヌ文化に関する歴史的経緯
 アイヌ文化の基礎が形成されたのは、擦文文化及びオホーツク文化の後半頃といわれています。この時期から、従来からの狩猟・漁撈・採集を生活の基盤としながらも、竪穴住居から平地住居へ、土器から鉄鍋(土鍋)・木製の食器へ、石器から鉄器へなど、生活様式や道具などに大きな変化がおきてきます。
 また、和人との交易が進展したことで、和人社会から日常生活に必要な物資が流入し 、狩猟・漁撈などは自給自足のためだけにとどまらず、交易のための商品生産としての 活動へと次第に転換していきました。
 アイヌの人たちは、固有の言語、伝統的な儀式や祭事、多くの口承文芸、アイヌ文様などの独自の文化をもっていましたが、松前藩の統治が進むにつれて、アイヌの人たちの自由な交易が制限され、特権商人による漁場でも使役や移住などが強いられ、さらに江戸幕府による熊の霊送りや入墨の禁止、日本語の使用、農耕の奨励などの和人化政策によりアイヌの人たちの社会や文化の破壊が進みました。
 特に明治以降、伝統的風俗・習慣の禁止、日本語使用の強制などの同化政策や、本州などからの移住者が増加し、北海道の開拓が本格的になり自然環境の変化、特に生活基盤となる河川や森林の変化、また、鳥獣捕獲や河川漁業の規制などにより、アイヌの人たちの社会や文化が受けた打撃は 決定的なものとなりました。
 その後のアイヌの人たちの保護と生活の安定等を目的として制定された 北海道旧土 人保護法による施策も、アイヌの人たちの窮状を改善するために十分機能したとはいえませんでした。
 道では、昭和47年にアイヌの人たちの生活実態についての調査を行いましたが、多くの点において道民一般との間に大きな格差があることが明らかとなりました。
 このため、昭和49年度から北海道ウタリ福祉対策を推進しており、この間、アイヌの人たちの生活の状況は徐々に改善されてきてはいますが、まだなお格差が存在しているとともに、同対策におけるこれまでのアイヌ文化の振興等に関する施策は十分なものとは言い難い状況にありました。


  □ アイヌ文化の現状と課題
 現在、アイヌの人たちは、様々な道を選択しながら生活を営んでおり、独自文化を伝承している人も、アイヌ語を話せる人も極めて限られた数にとどまるという状況に至っています。
 これまで、アイヌの人たちの伝統的儀礼、歌や踊り、口承文芸などの記録保存、調査研究や伝承、チセやアイヌ民族衣装、儀式用具、猟具などの収蔵や復元、調査、伝承を始め、伝統的工芸技術を生かした工芸品展示会の開催、アイヌの人たちによる著書・歌集などの整理や調査分析、道内14か所でのアイヌ語教室の開催などが行われていますが、今後、アイヌ語やアイヌ文化を伝承普及していく上で、若い伝承者の育成や伝統技能の伝承、原材料の確保など文化振興事業の充実が望まれています。
 また、アイヌの人たちが長い歴史の中で民族としての独自の伝統や文化を培い、現在に至るまで伝えていることなどのアイヌ民族の歴史や文化などに関して十分な理解が得られていないことなどから、いまだに偏見、差別があると感じている人がいることや、アイヌの人たちの民族としての誇りが尊重される社会の実現などを目的としたアイヌ新法の内容についても十分に知られていない状況にあります。
 さらに、近年、アイヌの人たちの歴史や自然観に基づく生活様式、アイヌ語に由来する地名などに多くの関心が寄せられており、道内の一部の河川においてはアイヌ語による河川名の併記が進められているほか、アイヌ語に由来する地名を復活させる取組みも始まっています。
 この他、アイヌ文化の保存振興を図るためには、研究者の育成や研究機能の充実、アイヌ文化を伝える・体験できる・学べる総合的な場の整備などとともに、アイヌの人たちの生活基盤の安定を図る施策の推進も求められています。



4. アイヌ文化の振興等に関する基本的な方針
 
□ 施策の基本的方針
 アイヌの人たちの民族としての誇りの源泉となっているアイヌ文化がおかれている状況を踏まえると、これらアイヌ文化の保存・振興を図り、伝統的文化を現在に生かし発展させていくとともに、アイヌ民族の伝統や文化などに関する理解を深めることが、アイヌの人たちの民族としての誇りが尊重される社会の実現と文化の一層の発展を図る上で重要であることから、次の基本的な方針に立って施策を推進します。



 
1 アイヌ文化の振興  
 アイヌの人たちの民族としてのアイデンティティ(帰属意識)の基盤であるアイヌ文化を次世代へ継承することができるよう、アイヌ文化の保存、伝承に関する施策を推進します。
 
また、アイヌ文化を歴史的な遺産にとどめることなく、現代社会に生かし、将来に向かって発展させることができるよう、アイヌ文化の振興に関する施策を推進するとともに、総合的・効果的な実施に努めます。


 
2 理解の促進
 アイヌの人たちの民族としての誇りの源泉であるアイヌ文化を、本道の文化の一つとして広く道民が理解を深めることができるよう、アイヌの人たちの伝統や文化についての知識の普及と啓発に関する施策を推進します。
 また、いわれのない偏見や差別が生じることのないよう、アイヌの人たちについての理解の促進に関する施策を推進します。



5. アイヌ文化の振興を図るための施策に関する事項
 
□ 施策の基本的方向
 施策の基本的方針を踏まえ、アイヌ文化の振興を図るための基本的方向を次のとお りとします。



 
1 アイヌ文化の保存・伝承
 アイヌ民族のアイデンティティ(帰属意識)にかかわるアイヌ文化を保存・伝承するため、アイヌ文化の保存活動、調査研究などの施策を推進します。
 また、アイヌ民族の伝統的な儀礼、歌や踊り、アイヌ語などの文化を次世代へ継承するため、伝承活動意欲の向上、伝承者の育成、伝統的技術の保存などの施策を推進します。



 
2 アイヌ文化の振興
 アイヌ文化の振興を図るため、アイヌの人たちはもとより広く道民が、伝統芸能や伝統工芸品など伝統文化に触れる機会を提供するなど、アイヌ文化の体験、学習機会の確保を図ります。
 また、アイヌ文化の振興施策を総合的・効果的に進めるため、文化振興団体への支援に努めます。
 さらに、アイヌ文化を総合的に伝承するとともに、体験、学習の場としてアイヌの人たちの伝統的な生活空間の再生整備が望まれています。また、アイヌ語に由来する地名の普及が望まれていることから、これらの推進に向けた取組みの充実に努めます。



 
□ 推進施策
 施策の基本的方向に基づき、次のとおり施策を推進します。



 
1 アイヌ文化の保存・伝承
 
(1) アイヌ文化の調査研究などの充実
 アイヌ文化を総合的に保存・伝承していくため、これまでアイヌの人たちの中で受け継がれてきた伝統的な生活習慣や儀礼、歌や踊り、口承文芸、様々な技術などをアイヌの人たちの協力を得ながら正確に記録保存するとともに、これらの体系的な整理分類を進めます。
 また、伝えられてきたアイヌ文化を将来にわたって保存し、活用することができるようにするため、アイヌ文化の背景にある世界観や自然観、生活の知恵、様々な技術・技法などはもとより、アイヌ民族の歴史も含めた総合的な調査研究の促進に努めます。



 
(2) 伝承活動の支援
 アイヌ文化は単に記録として保存され、調査研究の対象となるばかりではなく、アイヌの人たちの民族としての誇りの象徴として、次代へ継承されていかなければなりません。  
 このため、アイヌ語指導者や話者、伝統的芸能や口承文芸伝承者などの養成や、チセの建築、アットゥシの製作など伝統的技術の保存や伝統的儀式の再現などのための原材料の確保など、伝承活動の支援のための取組みの促進を図ります。



 
2 アイヌ文化の確保
 
(1) 体験学習機会の充実
 アイヌ文化はアイヌの人たちの民族としての誇りの源泉であり、希望するアイヌの人たちが容易にその文化を体験、学習し、伝承することができる機会の確保が求められています。
 また、道民一般も必ずしも身近なものとして感じていない状況にあります。
 このため、刺しゅうや伝統芸能などアイヌ文化を体験する機会、アイヌ語に親しみ学習する機会や発表の場の提供、伝統的工芸技術を用いた工芸品や現代的創作作品の展示会の開催など体験、学習機会の確保に努めます。



 
(2) 文化振興団体等への支援
 アイヌ文化の振興を総合的・効果的に推進するためには、国や道、さらに市町村と協力、連携して各種事業を行っている民間団体の活動も重要な役割を果たします。
 このため、アイヌ新法を契機として設立されたアイヌ文化振興・研究推進機構事業や、北海道ウタリ協会をはじめとする各種団体の文化活動が促進されるよう努めます。



 
(3) 伝統的生活空間の再生
 アイヌ文化を総合的に伝承するとともに、体験・学習、さらに交流などその振興を図るための場の整備が望まれています。
 このため、アイヌの伝統的な生活の場の再生をイメージし、様々な展示施設などを盛り込んだ伝統的生活空間の再生・整備に向けて調査検討を行い、関係機関に対し働きかけるとともに連携を図りながら、その実現に向けた取組みに努めます。



 
(4) アイヌ語に由来する地名の普及
 本道の地名の多くは、その地形の特徴や土地の産物など身近な生活を反映して付けられたアイヌ語に由来しており、アイヌの人たち の生活や過去の本道の自然環境を知る上でも貴重な資料ということができます。
 このため、アイヌ語地名に関する研究の推進や地名表示への活用など、本道のアイヌ語に由来する地名の普及の促進を図ります。



6. アイヌの伝統等に関する道民に対する知識の普及及び啓発を図るための 施策に関する事項
 
□ 施策の基本的方向
 施策の基本的方針を踏まえ、アイヌの伝統等に関する道民に対する知識の普及及び啓発を図るための基本的方向を次のとおりとします。


 
1 知識の普及・啓発
 アイヌの人たちが、長い歴史の中で民族としての独自の伝統や文化を培い、現在に至るまで伝えていることなどについての知識を深めるため、アイヌ民族の伝統や文化に関する情報の提供など普及・啓発に関する施策を推進します。



 
2 理解の促進
 アイヌ民族の伝統や文化などについての理解が十分でないことなどによる偏見や差別が生じることのないよう、アイヌ民族の伝統や文化を正しく理解するための機会の確保や、アイヌの人たちとの相互理解を深めるための施策を推進します。


  □ 推進施策
 施策の基本的方向に基づき、次のとおり施策を推進します。


 1 知識の普及・啓発
 
(1) アイヌ民族に関する情報の提供
 アイヌ民族が我が国の北方周辺地域における先住民族であることやその伝統、文化及び現状などについて、必ずしも十分な情報が提供されてきていませんでした   。
 このため、アイヌ文化交流センターや道立ウタリ総合センターの活用、パンフレットやリーフレットの作成配布、ホームページの開設など、計画的な広報活動によるアイヌ民族に関する情報の提供に努めます。


 
(2)講演会の開催等
 アイヌ民族の伝統や文化に関する知識は、単に情報として受け止めるだけではなく、より深い知識を得るため、自ら能動的に働きかけることも望まれます。
 このため、北海道開拓記念館や北海道立北方民族博物館などの博物館等の施設におけるアイヌ文化に関する特別展、講演会の開催などに努めます。   


 
2 理解の促進
 
(1)教育などの充実
 アイヌ民族の伝統や文化などについて、正しく理解し、偏見や差別などが生じることのないようにするためには、幼い時から正しい知識を学ぶことが必要です。
 このため、学校教育で活用できる教材を作成するとともに、学校教育における適切な指導に努めます。
 また、学校教育や社会教育の関係者、行政に携わる職員もアイヌ民族の歴史、文化及び現状についての理解を深める必要があります。
 このため、アイヌ民族に関する理解を促進するための講習や研修の機会の確保に努めます。 


 
(2)交流機会の確保
 アイヌの人たちについての理解を深め、いわれのない偏見や差別が生じることのないようにするためには、アイヌ文化に親しむ機会の充実を図るとともに、アイヌの人たちとの交流を深め、お互いを尊重することが必要です。
 このため、体験機会や相互に交流する機会の確保に努めます。



7. アイヌ文化の振興等を図るための施策の実施に際し配慮すべき重要事項
 
1 アイヌの人たちに対する配慮及び国や関係機関との連携
 アイヌ文化の振興等を図るための施策の推進に当たっては、アイヌの人たちの意見や自発的意思と民族としての誇りを尊重するとともに、広く道民の理解のもとに進めていくことが必要です。
 また、市町村、民間及び道民に対しては、この基本計画の趣旨に基づいた取組みが展開されることを期待するものです。
 さらに、国との密接な連携に努めることはもとより、財団法人アイヌ文化振興・研究推 進機構を有効に活用するとともに、関係研究機関や博物館、北海道ウタリ協会などとの連携を図りながら、この基本計画に基づいた施策を総合的・効果的に推進することします。


 
2 人権の尊重
 アイヌの人たちが、憲法のもとで平等を保障された国民として、その人権が擁護されなければならないのは当然のことです。しかしながら、アイヌの人たちに対する理解が十分でないことから、依然としていわれのない差別や偏見があると考えられます。
 このため、この基本計画に基づく施策を推進することによって、アイヌの伝統等に関する道民の理解を深め、アイヌの人たちの伝統や文化が尊重され、お互いの人権を尊重し合いながら、差別のない社会を作っていくことが大切であり、アイヌの伝統等に関する施策の推進に当たっては、人権擁護機関と密接な連携を図ることとします。


 
3 生活の向上・安定
 アイヌの人たちに関する施策は、アイヌ語をはじめとするアイヌ文化の振興やアイヌの人たちについての理解の促進など、アイヌ新法に基づいたアイヌ文化の振興等のための施策と、アイヌの人たちの生活の向上と安定を図る施策が両輪となって推進され、アイヌの人たちの民族としての誇りが尊重されるとともに、地位の向上が図られる社会の実現を目指していかなければならないと考えます。
 このため、この基本計画に基づくアイヌ文化の振興等の施策の推進のほか、生活の向上と安定を図るために、現在実施している「第4次北海道ウタリ福祉対策事業」を引き続き推進するとともに、アイヌの人たちの生活実態把握に努めるなどして、今後の施策のあり方を検討することとします。


 
4 体系的な施策の推進
 この基本計画に基づく施策の推進に当たっては、北海道ウタリ福祉対策をはじめ、第3次北海道長期総合計画や北海道教育長期総合計画などの関連施策との整合性を図ることとします。